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ISSライブラリー ~講師が贈る今月の一冊~

2017.06.02

スキルアップ

第14回:今野由紀子先生(英語翻訳)

第14回:今野由紀子先生(英語翻訳)

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、今野由紀子先生ご紹介の「日本人の英語」(マーク・ピーターセン著、岩波新書、1988年)です。
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私の総合翻訳・基礎科のクラスではいろいろな本を紹介していますが、出番が一番多く、テキストのように使っているのがこの本。すっかりお馴染みの本なので、ここでとりたてて紹介する必要もないのかもしれませんが、特に愛用の英語参考書として、やはり一応挙げておきます。

「目から鱗が落ちる」という表現がありますが、この本はまさにその表現にぴったりの感動を与えてくれました。大多数の日本人英語学習者を悩ませている「冠詞」の問題に私も頭を悩ませていたとき、この本に出会って非常に大きな衝撃を受けました。著者マーク・ピーターセンは、「名詞にa をつける」という表現は無意味である。もし「つける」で表現すれば「a に名詞をつける」としかいいようがない、と言い放っているではありませんか。「ええっ!それってどういうこと?」なんという逆転の発想!冠詞の理解について、発想という根底を覆す意識革命を迫られたのです。

英語の発想と日本語の発想は異なるということは、安西徹雄先生の『英語の発想』(講談社現代新書)を読んで、ある程度は分かっているつもりでした。しかし実は、名詞と冠詞というこれ程単純で基本的な英語の土台についてすら、私は何も分かっていなかったのです。

それまで少なくとも20年間、英語を学び、英語を使って仕事をしてきた私にとって、これは単なる驚き以上のものでした。耐震性能が不安になって家の土台を調べるために床下にもぐってみたら、土台が壊れていたのを発見したというような話ではなく、そもそも土台が無かったという事実を発見したようなものです。一つの技能をきちんと身につけるためには、根本となる土台が大切です。上っ面の知識だけでは本物にはなり得ません。

最近、ネイティブが教える英語の語法指南書なるものが巷にあふれるようになりましたが、日本人の英語はその元祖、というか先駆けとなった本。マーク・ピーターセンもその波に乗って、その後続 日本人の英語』『実践 日本人の英語』『心にとどく英語などのシリーズを岩波新書から次々と出しており、全部読むと、冠詞、単数と複数、前置詞、動詞、助動詞、時制、受身、関係詞、副詞、接続詞、仮定法と、英文法の大部分を網羅しています。どれを読んでもいいのですが、どれか一つと言われたら、私はやはり最初に出た日本人の英語をお勧めします。

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今野 由紀子(こんの ゆきこ)
上智大学外国語学部英語科卒。米国ブリガム・ヤング大学留学。フリーランス翻訳者としてAT&T、JICA関連の翻訳に従事した後、翻訳担当として貿易商社および大使館に勤務し、長年、幅広い分野の実務翻訳に携わる。ISSインスティテュートでは「総合翻訳・基礎科1、2」を担当。
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日本人の英語 (岩波新書)
マーク・ピーターセン
岩波書店
¥ 799
(1988-04-20)

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