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通訳キャリア33年の 今とこれから 〜英語の強み〜

2024.12.02

通訳

第12回:通訳現場でのトラブル回避・トラブル対処法

皆様こんにちは。あっという間にもう師走ですね。
師も走るほど忙しい12月、少し前、2023年年末を過ごしたと思っていたら、もう2025年が目の前。光陰矢の如しです。歳をとると、一年をはかる基準の分母が大きくなるので、加速度的に一年が終ってしまいます。

毎年、一年が終るまえの数か月間は、通訳業界にとっての繁忙期。大きな会議やセミナーの依頼が毎日のように来て、毎日夜遅くまで資料を読んで、本番に臨み、終わったらまた次の日の資料を読んで、という繰り返しです。体調管理が本当に大切になる時期です。

この超忙しい時に、大型案件が重なることもあるのですが、その時のしのぎ方を少し書きます。
案件をいただき、複数の通訳者で組む仕事の場合、私は年齢的に上である場合も多く、分担を決める立場になることがあるのですが、その際は、パートナーさんたちに二つの質問をします。担当する通訳時間は、絶対に15分以内にしたいのか?長くなってもいいので、例えばアジェンダ一つを丸ごと担当して、資料を読む量を最少にしたいのか?その回答によって、分担を決めます。ほとんどの場合、「担当時間が多少長くても、読む資料が少ない方がいい」という回答をいただきます。エージェントからも私たち通訳に、この質問が来ることも多いですが、今までのところ、一人あたり20分前後ならば、アジェンダ一つ丸ごと担当したいという意向が多いです。中には、30分まで平気だから、担当アジェンダ数を減らしてほしいという強者もいます。

さて、今月のタイトルは「通訳現場でのトラブル回避・トラブル対処法」という内容です。

トラブルを回避する、これは実はアジェンダが発行されたときから始まっています。みなが納得する公平な分担で采配すると、ほとんどのトラブルは回避できますし、トラブルが起こった時でも「時間的にも納得して分担を決めた」ということで、大きなことにはなりません。結果的にAさんがBさんより30分も多くなってしまったときの解決方法を書きましょう。各人がその会議で、実際に同時通訳した時間を計測しておくととても役に立ちます。具体的に数字を示すことで、エージェントへ報告するときに、Aさんが大変だったことを報告します。「Aさんだけ大変だった」と曖昧な報告をしても伝わりません。「Aさんは合計120分、Bさんは90分でしたので、Aさんは大変で不公平になってしまいました」と報告します。具体的な例を出さないと、エージェントの方でも把握できないのです。私はパートナーさんたちのためと自分のために、10年ほど前から自主的に時間を記録しています。そして、不公平が生まれた場合はエージェントへ報告、クライアントへ次回の改善点を提案してもらいます。だいたいその次からは、時間管理をしてくれるようになります。

次に、通訳中のパートナーへのメモ出しについてです。
これは現場対応の場合ですが、会議が始まる前にパートナーさんたちに、メモ出しが必要か否か、必要ならばどの程度なのか、数字だけでいいのか?固有名詞もメモ出しするのか?を確認します。
私は必要最低限のメモ出ししかしません。同時通訳をやっているときにメモを出されると自分が嫌だからです。理由は気が散るのです。数字は歓迎しますが、内容についての(そのパートナーさんが自分で思っている良い)訳であったり、意味は同じなのに「その人の言葉」をメモ出しされると、集中力が途切れて、その瞬間のスピーカーの言うことをヒアリングできなくなるからです。より良い(そのパートナーには)訳をメモ出しされた場合でも、話はもう先へ進んでいるので、役に立ちません。間違った訳をメモ出しされることもあり、これは迷惑でしかありません。また筋は同じなのに、パートナーのフレーバーの訳を出されて、自分の訳の一貫性が吹っ飛んでしまったこともあります。
数字のメモ出しをするときは、間違わないようにしてください。メモ出しの間違いや、メモ出ししすぎで、ブースの中で微妙な空気が流れることもあります。勝手に判断せず、メモの要不要や程度を事前にパートナーに確認することで、メモ出しのトラブルは9割方防ぐことができます。

そして、遅刻。
これはトラブルではなく、その本人の問題なので、解決は難しいです。交通機関が止まってしまって遅刻する、或る意味不可抗力でしょう。でも、クライアントにとっては一期一会の国際会議です。交通機関Aが止まってしまってもBに乗り換えて何とか間に合うような時間の余裕をもって家を出るのは、プロの通訳にとっては当然と考えます。過去に、台風が来る予報の日の前の夜、会場が自宅から一時間の案件でしたが、すぐ近くのホテルに泊まりました。もちろん、自分で費用は払ってです。基本的に、通訳に遅刻は許されないと思ってください。
そのうえで遅刻をしてしまった場合は、まずはエージェントへ連絡をするのは当たり前ですが、理由を説明して、そしてパートナーにもきちんと謝り真摯に臨むことです。その間、あなたの代わりにやってくれていたならば、会議の終わりの部分を多めにするなどしてください。一度、パートナーが怪我をして遅刻したことがありました。私は仕方ないと思って、そのカバーをしました。でも、もう一人のパートナーBは、一日中その案件が終るまで不機嫌でした。なかなか難しいですが、謝るしかない事例です。

交代時のトラブル。
複数で分担する案件は、一人10分から15分で交代します。私は、オーバーしても30秒以内に交代するように心がけています。でも中には、「自分で」区切りがつくところまでやって交代する人もいます。これは困ったもので、その人の頭の中はわからないので、一体どこが区切りなのか見えません。2分以上交代するためにスタンバっているのは、神経がすり減ります。切りの良いところで交代しましょう。
以前、交代の仕方がなっていないということで、ブース内で大喧嘩をした人もいました。「マイクを乱暴に置いた」とか「交代の時の音がうるさい」なども、気を張り詰める通訳現場ではトラブルにつながることがあるようです。交代するときは、次にそこに座るパートナーのために、耳を取る*スピーカーのボリュームは、最低に戻しておく方がいいと思います。交代した時に耳に大きな音が入ってこないようにです。
*通訳者がデバイスを通して音声を聞くこと。対義語は空気を伝わる音をそのまま聞く、「生耳」。

どれも細かいことのようですが、こういった気配りが足りないと、うまく仕事を回せません。そして通訳は集中力を要する、非常にストレス度の高い業種だと言えるので、できるだけ現場では気持ちよく楽しく過ごしたいですよね。そのためには、気配りとエチケットを守りましょう。
かくいう私も完璧ではないので、私と組んだことのある方がこれを読んでる方の中にいらっしゃるかも知れません。もし私が無礼なことをしていたらお許しくださいませ。私も日々、学んでいます。
そして、通訳業界が楽しくなるようにしたいと思います。
それでは、ますます寒くなりますが、温かくして、お風邪など召されませんように!
次は2025年にお目にかかりましょう。

相田倫千


大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。

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