ISSライブラリー ~講師が贈る今月の一冊~
2021.02.03
スキルアップ
第56回:張意意先生(中国語ビジネスコミュニケーション)
先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー。
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月は、中国語ビジネスコミュニケーションコース講師、張意意先生がご紹介する「論語」です。
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新年好。今年も一緒に楽しく勉強し、充実した時間を過ごしましょう。どうぞ、よろしくお願いいたします。
今回お勧めしたい一冊は『論語』です。
なぜ今更、「論語」なのでしょうか。紹介しなくても知らない人はいないでしょう。しかし、知っている、読んだことがあるにもかかわらず、すらすらと口にできる文はいくつあるでしょうか。翻訳や通訳の仕事をこなすために、できるだけたくさん覚えられるよう、手元に置いて繰り返し読みたい一冊です。
小松達也氏の「通訳の英語 日本語」には、「英語で引用されることが最も多いのは、シェークスピアと聖書である。ところが日本人の引用で断然多いのは中国の古典、特に『論語』だ。」と書かれています。日英訳において難点として指摘された中国古典の部分は、日中訳においても同じであり、さらに重要視しなければなりません。というのは、中国の古典については、日本語も英語も中国語からの訳文で、同じ意味で違う単語を使って表現するのは許されますが、原文である中国語の場合は、書かれたまま言えないと、格好が悪いからです。
例えば、日英訳の場合、「信なくば立たず」を「信用がなければ何事も成就しない」或いは「信念がなければ行動をおこさない」と展開することはできても、中国語では「無信不立」しかありません。もちろん、話し手がこの言葉を使う意図を説明した場合に、その説明を訳すことはまた別の話になりますが。
古文を覚えるのは一苦労かもしれませんが、それでも時間をかけて、何回も読みなおして覚える価値があると思います。『論語』の思想は中国人の日常生活にはもちろんのこと、日本人の生活にも溶け込んでおり、国際交流、ビジネス商談など、さまざまなシーンで引用されます。いろいろなレセプションで「有朋自遠方来不亦楽乎」(朋あり遠方より来る、また楽しからずや)がよく使われているのはその一例です。
数多くある論語の中国語現代語訳の中でも、斎藤孝著「現代語訳 論語」(ちくま新書)やPenguin Classicsの英語版論語「Confucius: The Analects」などは簡単に手に入りますので、違うバージョンを比べて読むことで自分の理解を深めるのも面白いです。しかし、簡単に現代人が理解できるよう、各著者により加味され覚えやすい反面、元の意味といささかのずれが生じる可能性があります。また、くだけた訳文だと、意味が正確でも、簡潔で奥深い古典の魅力、格式高いニュアンスが反映されません。そこで、現代語訳や説明文を覚えるのではなく、原文を覚えることも大事だと思います。
くどくなるようですが、ぜひ原文がすらすらでてくるよう(脱口而出)、繰り返し読みましょう。
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張 意意
ビジネスコンサルタント。中国北京外国語学院卒業。証券会社を経て、現在、コンサルティング会社経営。現役通訳者、翻訳者としても活躍中。
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