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会社辞めて地方に移住して翻訳始めて兼業主夫とイクメンやってみた

2025.09.01

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第11回:家族の意見も聞いてみないと――妻へのインタビュー

第11回:家族の意見も聞いてみないと――妻へのインタビュー

家事・子育てにお金と、日々の暮らしに直結する話が続いたので、ここで妻の意見も聞いてみたいと思います。事前に趣旨を伝えて話を聞き、それを再構成したものを本人の了承を得て紹介します。なお、文中の「フリ夫」はフリーランス翻訳者の私を、「サラ妻」はサラリーウーマンの妻を示します。

第一声は「ハアッ?」

私> この連載では夫婦のキャリアと家庭生活の“三方良し”を目ざした暮らしぶりを書いてきたけど、まず、全体的な感想を教えてくれる?

妻> 一通り読んだけど「ハアッ?」という感じ。

私> えっ?いきなり、それ?

妻> なんか偉そうに、初めからキッチリ決めて進んできたみたいに書いてるけど、そんなじゃなかったよ。いちいち計算ずくで暮らしてきたわけじゃないもの。

私> う~ん、そんな書き方はしてないつもりだけど・・・。失敗や試行錯誤の末に、こう落ち着いたという流れにしてるし。

妻> そのつど、できることを夢中でやってきただけ。それを振り返ったら、ああ、こうだったって話だと思うよ。

私> その通り。とはいえ、ただエピソードを並べただけだと、昭和おやじの回顧録みたいじゃん。だから、翻訳業に関心を寄せる人の参考に少しでもなればと、それなりに整理した上で、良いことも悪いことも書こうと思ったわけ。

妻> それにしても、書き方が理屈っぽい。

私> そこは硬い文章ばかり訳してきたからってことで大目に見てもらうとして、本題に入らせて。

“サラ妻”のキャリアの自己採点

私> Iターンして20年以上になるけど、その間のキャリアを振り返ると何点くらい?

妻> やりたいことが一通りできたから95点にしとく。

私> そんなに高得点!?具体的に言うと?

妻> まず前半で、専門を生かした形で成果を残せたからね。現場経験を経て、4年がかりの新規プロジェクトを企画から完成まで手掛けられたことが最高だった。もちろん勤め人だから、途中にはクズみたいな仕事ばかりの期間もあったけど。

私> 結果として、それなりにうまくステップアップできたんだ。

妻> ただ、次の4年間は知識も興味もない仕事だったから、毎日が嫌で仕方なかった。

私> あのころは目が腐ってたよ。

妻> その次も専門外の業務で初めはつまらなかったけど、これがだんだんと面白くなってきてね。

私> どういうこと?

妻> 仕事のやり方が、それまでとは真逆だったの。前は自分でガリガリと進めていく感じだったけど、その業務では自分は前面に出ず、側面から支援するわけ。

私> それだと自分がやりたいことができないじゃん。

妻> それがね、そうやって自分だけの世界を離れることで、かえって世界が広がったし、地域で頑張っている人たちをサポートすることにやりがいを覚え始めたんだよ。それに自分でも意外だったけど、私のキャラに合ってた。

私> なるほど。Iターンの結果として地方ならではの仕事に出会い、新たな世界と新たな自分を発見したってことね。

妻> 退職してもボランティアとして、その活動を続けるつもりだよ。

私> キャリアの後半戦でライフワークを見つけたんだ!僕も第1回で「1粒で2度おいしい人生を」って書いたけど、そちらも2度おいしいキャリアになったわけだ。

“フリ夫”の功罪

私> キャリアは合格点だとして、フリ夫ゆえのプラスとかマイナスはあった?

妻> そもそも東京で再就職してたら、私が目ざしていたことはできなかったと思う。

私> 東京では、専門を生かせそうな中途採用がなかったものね。

妻> それにIターンした後、二人とも勤め人だったら、子育てしながら片道2時間かかるところへの転勤なんか受けられなかった。さっき話したプロジェクトとも出会えず、不完全燃焼で終わってたと思うよ。子育てできずに仕事を辞めてたかも。

私> つまり、Iターンしてキャリアを築けたカギはフリ夫にありってことか。僕の方も、あの状況で何冊か訳したけれど、会社勤めだったら仕事に穴を開けるか体を壊してたかもね。とはいえ、僕がフリ夫になると決めたときは不安じゃなかった?

妻> そうでもない。先のことはあまり具体的にイメージしてなかったし、ずっと働くつもりだったから何とかなると思ってた。

私> ただ、フリ夫だと経済的に不安定だから、途中で仕事が合わないとか、やっぱり専業主婦がいいってなったときに、辞める選択肢がなくなっちゃうよね。

妻> たしかに、固定収入がないと家計の方は厳しいからね――特に子どもがいると。「こんな仕事イヤ」と思ってもどうすることもできず、悶々としていたのは保育園のころだったな。その山を乗り越えたところで、運よく私にぴったりの新規プロジェクトが回ってきたのだから、踏ん張って良かったよ。

家庭生活と“フリ夫”

私> キャリアではなくて、暮らしの面からは何点かな?

妻> そっちも高得点だね。平日、帰宅してから料理してたら夕食も寝るのも遅くなるし、規則正しい生活はできなかったと思う。親子とも健康に暮らしてこられたのは、片方が在宅だったからかも。

私> コンビニ弁当やレトルトばかりになってたかな。

妻> 子どもの急病にも対応しやすかったし、かなりプラスだったと思う。

私> 一応言っておくけど、在宅ワーカーの側としては、そうしたトラブルと仕事の板ばさみでめちゃ苦労したよ。ところで、そのつど家事や子育てを手分けしてきたことについては?

妻> “共同分担制”なんて呼び方には「ハアッ?」だけど、毎日の生活を回すには良かったんじゃない?

私> 食事については、平日は僕がササっと用意し、週末はキミが少し凝ったものを作る形になったので、食生活としても家計上もメリハリがついた気がする。

妻> 私も料理は好きだから、ちょうど良かった。手分けすることで、週末が雑用だけで終わらず、料理も含めて結構楽しめたかな。そういう意味でも合格点。

ほかの夫婦は?

私> 職場にもちらほらとサラ妻とフリ夫の夫婦がいるそうだけど、家事や子育てはどうしてるのかな?

妻> たいてい、実家の近くに住んで産休後は助けてもらうパターンかな。それこそ、子どもはジジババに育ててもらいましたとかね。

私> そんなだから、男同士で飲んでても家事や子育ての苦労話が出ないのか・・・。

妻> 奥さん同士で話すと、旦那が引退後も家事をしないし、出かけようとすると「何時に帰る?」とうるさく聞かれるって怒ってる。

私> 僕も同じことを聞くけど?

妻> それは、どっちが食事を作るかという確認でしょ。そうじゃなくて「ちゃんとメシを作れよ」ってことだから腹立つみたい。夫も料理すると言うと、めちゃ驚かれるよ。

私> もしかして僕が変わり者なのかな?

妻> うん。頑固だしね。

私> ま、いいか。家事・子育てを経験したせいか、女性作家が書いた家族小説も面白く読めることだし。

私> 最後に聞くけど、やり直せたらどうする?「サラ妻+サラ夫」とか「サラ夫+専業主婦」かな?

妻> やっぱり「サラ妻+フリ夫」だよ。

インタビューを終えて

高評価に気をよくした私は、ビール片手に何度目かになる映画『パディントン』を見始めました。この春、第3作が公開されたシリーズの第1作です。

この作品では随所に”double-meaning”のジョークが登場します。たとえば、駅のエスカレーターで”Stand on the right”という掲示を見たパディントンは、おずおずと左足を上げて片足立ちをします。

別の場面では、車がT字路に近づくとカーナビが“In one hundred yards, bear left.”と指示しますが、その時、左の上空には傘を開いたパディントンがいます。字幕は「100メートル先、左方向ベア」でしたが、職業柄、「左にベア曲がる」もありかななどと考えてしまいます。さらに、ルビを使わない訳し方も気になったので吹替版を見てみると、「100メートル先、左に注意」と言っていました。左方向への指示と左側に熊がいることを一言で示すため、悩んだ末に「注意」という言葉にたどり着いたのでしょう――やはり翻訳の沼は深いようです。

***

次回は、東京から遠く離れた地方で翻訳者を目ざした経験を振り返ります。

鈴木泰雄


京都大学文学部卒業。MBA(ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院)。大手飲料メーカーにて海外展開事業等のキャリアを積んだ後、翻訳者として独立。家事・育児と両立しながら、企業・官公庁・国際機関向けの実務翻訳のほか、「ハーバード・ビジネス・レビュー」「ナショナルジオグラフィック(WEB版)」をはじめとしたビジネスやノンフィクション分野の雑誌・書籍の翻訳を幅広く手掛けてきた。鳥取県在住。

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