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背中を押し続けてくれた 継続は力なり!

2015.08.03

通訳

第8回:DLS Dynamic Listening and Speaking 日英通訳力強化のために

第8回:DLS Dynamic Listening and Speaking 日英通訳力強化のために

日英通訳力強化のために、前回お話したクイックレスポンスに加えてお勧めしたいのが、DLSです。この訓練方法は、通訳者で、東京外国語大学大学院で通訳を教えていらっしゃる新崎隆子さんと、千葉商科大学の高橋百合子教授が、『眠った英語を呼び覚ます』(はまの出版、2004)※で紹介された訓練法です。ある一定の長さ、2~3パラグラフ位の英語を、メモを取りながら聞き、その内容を英語で再表現するという訓練です。初級者の場合は、そのパラグラフで使われたカギとなる単語やフレーズをあらかじめ用意し、自分のメモと合わせて利用しながら、理解した内容を英語で表現します。慣れてきたら、自分のメモだけで再表現します。

例えば、ここでは音声がありませんから、文字で読んでいただいて理解した内容を、英語で表現するという、変形DLSをやってみましょう。以下の文章を読みながら、自分で大事だと思う単語をメモしていきましょう。読み終わったところで、そのメモを見ながら、今読んだところを英語で再生してみてください。オリジナルの英語は見ずに、メモから理解した内容を英語で表現します。メモの役割は、通訳をしている時と同じで、今理解したことを再生するために、その内容を引き出すためのtriger (引き金)です。

テキストはTED Talks(Ideas Worth Spreading)というサイトで紹介されているSherry Turkleさんという心理学者のスピーチの出だしです。技術と人間関係について研究している人で、20年前にはIT技術の素晴らしい可能性について指摘してWiredという雑誌で紹介された人ですが、今度は、その技術がいかに人間同士の生のつながりや人間としての成長を阻害しているかについて語っています。出典は https://www.ted.com/speakers/sherry_turkle です。音声も聞くことができますから、サイトで音声を聞きながらDLSをやっても良いでしょう。

Just a moment ago, my daughter, Rebecca, texted me for good luck. Her text said, “Mom, you will rock.” I love this. Getting that text was like getting a hug. And so there you have it. I embody the central paradox. I’m a woman who loves getting texts who’s going to tell you that too many of them can be a problem.
 Actually that reminder of my daughter brings me to the beginning of my story. 1996, when I gave my first TED Talk, Rebecca was five years old and she was sitting right there in the front row. I had just written a book that celebrated our life on the Internet and I was about to be on the cover of Wired magazine.

どうでしたか。英語を聞いて、あるいは英語を読んで理解したものを英語で再生するわけですから、簡単なようですが、実は英語で再生するのはなかなか難しいのではないでしょうか。このエクササイズでは、英語を聞いて、今は読んで、理解したものを、英語で再表現するのですから、元の英語表現を活用できます。完全に同じ表現でなくてもかまいません。もちろん自分自身の英語表現を使うこともできます。DLS訓練では、英語の聞取りと、語彙力、文の組み立て力が求められますが、当初の日英通訳訓練でネックとなり易い、単語力、表現力の強化が期待できます。また、速やかに英語で表現をしなくてはなりませんから、英語を使うチャンスを確保できます。

日英通訳の訓練では、最初から日本語を聞いて英語に訳すのではなく、DLSを行うことで、むしろ楽に英語表現力を強化することができるでしょう。日英がなかなかうまくならないという悩みを持つ方には、特にお勧めです。また、今回やっていただいた変形DLS、英語の文章を読んで、それを英語で再表現するというやり方は、まだ聞取りが十分ではない人でもできますから、良い訓練方法として利用できるでしょう。英語運用能力の強化には、英語でのアウトプットを増やすことが何より大事なのですから。

DLSは、日日通訳と合わせて、日英通訳が苦手な人の問題点の把握に使うこともできます。日英通訳では、日本語理解ができていないのか、英語表現力・運用能力に問題があるのか見極めが必要な場合が少なくありませんが、往々にして自分自身の問題点を把握していない人が少なくありません。DLSで英語から英語への再表現をさせると、とてもよくできる人が、日本語を聞いて英語への通訳ができない場合は、日本語の聞き方や理解に問題があると考えられます。一方、日本語を聞いて、日本語で再表現ができる、つまり日日通訳ができるのに、英語通訳が出てこない人は、英語表現力・運用能力に問題があると言えます。自分の問題がどこにあるのかをしっかり把握して、通訳の訓練に取り組むことは、通訳力向上への近道です。

日英通訳力を伸ばすのは、一朝一夕には行きません。コツコツと、色々な訓練方法を組み合わせて実施することで、楽しみながら継続してほしいと思います。

最後に同じ出典からの以下の部分を読んで、もう一度、変形DLSをやってみましょう。

Over the past 15 years, I’ve studied technologies of mobile communication and I’ve interviewed hundreds and hundreds of people, young and old, about their plugged-in lives. And what I’ve found is that our little devices, those little devices in our pockets, are so psychologically powerful that they don’t only change what we do, they change who we are.

知らない単語は一つもなかったと思います。日本語訳も簡単にできるでしょう。一方で「モバイル通信技術」「かれらのモバイルにつながった生活」「私たちがいつもポケットに忍ばせているこうした小さなデバイス」「心理的に非常に大きな力を持つ」「私たちの行動ばかりか私たち自身を変える」という日本語が出てきたら、すぐ英語に直せるでしょうか。DLSは、英語表現がすぐ口を衝いて出てくるように、ひたすら出す訓練の一つです。

※『眠った英語を呼び覚ます』(はまの出版、2004)
本書は現在絶版になっていますが、来年には改めてDLSについての本が出版される予定です。

石黒弓美子


会議通訳・NHK放送通訳者
USC(南カリフォルニア大学)米語音声学特別講座終了。UCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)言語学科卒業。ISS同時通訳コース卒業。國學院大學修士号取得(宗教学)。NHK-Gmedia国際研修室講師・コーディネーター。東京外国語大学等で非常勤講師。発音矯正にも力を入れつつ通訳者の養成に携わる。共著:『放送通訳の世界』(アルク)、『改訂新版通訳教本 英語通訳への道』(大修館書店)、『英語リスニング・クリニック』『最強の英語リスニング・ドリル』『英語スピーキング・クリニック』(以上 研究社)など

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