1. ホーム
  2. コラム
  3. 新着コラム
  4. 第29回:翻訳者就活Q&A

実務翻訳のあれこれ

2011.05.02

翻訳

第29回:翻訳者就活Q&A

第29回:翻訳者就活Q&A

あざといタイトルをつけてしまいました(笑)。

スクールに来た若い生徒さんに触発されて、今回は20代前半で翻訳者という職業を考えている人へのQ&Aをお届けします。

Q:翻訳者になるには、どのような進路がお勧めですか。

A:就職すること、できれば外国(人)と取引のある会社に入ることをお勧めします。
外資系か国内企業か、また会社の規模や業種は問いません。

現在稼働中の翻訳者の職歴の出発点は実に多彩です。それを見ても「この会社(業種)に就職しなければ翻訳者になれない」ということはないことが分かります。
あまりストイックに考えず、縁のあった会社に飛び込むことをお勧めします。

翻訳者になりたい場合、最初の職場で特に学びたいのは、「会社のあらゆる場面での書き言葉の使われ方」です。会社にはさまざまな文章が飛び交っています。そうした言葉のひとつひとつを、つぶさに観察しましょう。
さらに、会社の中で翻訳がどのように使われているのかを見ることができれば最高です。
また、その会社でしかできない経験をしておくことも、あとあと役に立ちます。

最初から翻訳業務にたずさわることを狙う必要はありません。後に答える通り、翻訳者は基本的に転職してなるものです。それよりまずは言葉の観察です。

Q:新卒でフリーランスになることは無理ですか?時々そういう通訳者・翻訳者の経歴を見かけるのですが…

A:確かに、いま60歳前後の通訳者・翻訳者には、外国語学部在学中からアルバイトとしてこの道に入り、卒業後はそのままフリーランスとして稼働している例が少なくありません。
でも2011年現在、残念ながら、新卒でいきなりフリーランスの通訳者・翻訳者になることはまずないのが現実です。
最大の要因は、英語ができる人が昔よりも大幅に増えたことにあります。
よほどのコネがある場合を除き、通訳者にしても翻訳者にしても、20代は下積み期間と位置づけるべきでしょう。

翻訳業界では、60代・70代の人が現役翻訳者として活躍しています。
驚くなかれ、ここは40歳の私がまだ若手という業界です。

いま大学生で翻訳者を志望するのであれば、「上の世代との競争で自分を選んでもらうにはどうしたらよいか?」という視点を持ったらよいと思います。
若くなくなって分かるのは、徹夜できる、馬力が必要な仕事をこなせる、時間の融通が利く、がむしゃらに何かをやって評価されるというのは、若さの大きなアドバンテージだということです。

Q:翻訳者だけで食っていけますか。

A:ずばり、それはあなたのスキルによります。厳しくてごめんなさい・・・。

もう少し詳しく書いてみます。

翻訳者の仕事の仕方には、企業に所属して働く「社内翻訳者」と、どこにも属さない「フリーランス」の2種類があります。

前者は、正社員、派遣、契約社員などの雇用形態があります。
正社員の社内翻訳者とは、一般的な就職活動を経て入社し、翻訳の発生する部署に配属された人のことです。
最初からこのポジションを狙って就職活動をするというのも、新卒採用の仕組みから考えて非現実的です。私の知る正社員社内翻訳者の多くは、「何も知らずに入社し、たまたま配属された部署の業務のひとつが翻訳だった」というケースです。

派遣や契約社員の翻訳者は、翻訳という職種に応募し、採用された人です。
この場合、数年の職務経験が求められることが多いため、この方法で社内翻訳者になろうとする場合は、まずは何年かの社会人経験を積んだ後、一念発起して退職し、派遣や契約社員となって翻訳に従事することになります。こうして転職によって翻訳業務に就くのが、翻訳者になるための標準的なコースです。

翻訳者になりたい場合、20代後半あたりから派遣や契約社員の形で社内翻訳者になるのは、スキルを高めるためのとてもいい方法です。
また、翻訳会社に就職するという方法もあります。この場合は翻訳者を管理する立場になります。実務翻訳の流れを見ることができるという点では、翻訳会社に勝る場所はないかもしれません。


一方、フリーランスは1回1回の案件ごとに依頼を受けます。誤解を恐れずに言えば、単発のアルバイトをずーっと続けている状態です。福利厚生・有給休暇・雇用保険一切なし、地位としては非常に不安定です。
でも、この道に入れば分かるのですが、自分の手と頭で稼いだ分だけが自分の稼ぎになる生活というのは、シンプルでとっても気持ちがいいのです。
また、自分にそれなりに力がついて、お客さんもそれなりに増えてくると、単発バイトの連続というよりも、お店を経営している感覚に近くなります。
この頃には、「翻訳で食えるかどうか」ではなく、「自分が翻訳者として食うためには何をすべきか」という方向に、問いの立て方が変化しています。
禅問答のようですが、後者の問いを立てた時点で、たいていの人はすでに食える段階に達しています。

もう少し具体的な、お金の話をしてみます。
翻訳者を含め、ライターやデザイナーなどのフリーランスがサラリーマンの平均年収を稼げるレベルになるには、10年程度の下積みが必要だとも言われます。この期間は、非常に忙しいand/or非常に収入が低いことを覚悟すべきです。
あるいは、社会人が転身をはかる場合、1年間の生活費を貯めてからとも言われます。参考までに、97年に私が転身をはかろうとした時には、1年間勉強に没頭するには200万円は用意しておきましょうと言われました。
諸事情から収入を確保する必要がある場合は、いくつかの仕事を並行して行うのも一案です。

Q:翻訳者に必要な英語力・日本語力は、どうやって磨けばいいですか。

A:日本語力の強化には、当コラムでもしつこく書いてきましたが、紙に印刷された活字を読むことが一番のお勧めです。ひとつあげるなら日経新聞ですが、新書やハードカバーの本、雑誌(一般誌も専門誌も)、小説などならなおよいでしょう。
紙で読んだほうが、言葉が自分のものになります。そして翻訳者にとっては言葉こそが自分の最大の商品なのです。「30歳までに大人の日本語に不自由しないようになること」を目標に、毎日積極的に本を読みましょう。

英語力は、1年でも早く「辞書さえあればなんでも読める」というレベルに達したいところです。
具体的には、構文・文法を完璧にすること。英文中にもやもやした部分がなく、すべての単語の役割を説明できるという意味です。
私が見てきた限り、英語の構文・文法の知識をひととおり完成させるには、一般的には、年代の10の位を年におきかえた期間が必要なように思います。
10代なら1年、20代なら2年です。

これも何度か書いてきましたが、英語の構文・文法知識を固めるために一番有効なのは、受験英語です。幼少期の海外経験は、特に翻訳の場合はそれほど関係ありません。それよりも、緻密に英文を読んできた経験のほうが、翻訳力に大きく関わってきます。

Q:翻訳者にはどのような人が向いていますか。

A:教科書的な答えは「翻訳者 適性」などで検索してみてください。ここでは、変化球の答えをしてみたいと思います。

先日、占い師に転身中の同級生に占ってもらったところ、私は自分というものが空っぽ(笑)なので、翻訳者になるべくしてなったと言われました。
(私自身は、この道に入ったのは大学院を落第したからだと思ってまして、退路を断たれたから前に進むしかなかったというのが実感なのですが・・・)

この友人は外資系金融機関の専門職として輝かしいキャリアを築いてきましたが、不惑の年に転身しました。私も20代後半で方向転換して翻訳者になりました。
彼女と「お互い、高校を卒業する頃にはこうなる片鱗があったけど、それを仕事にするに至るには、長い紆余曲折が必要だったよね」という話になりました。
向いていると信じていた仕事でも残念ながらそうでもなかったり、いろいろな紆余曲折を経てここまで来たように思います。紆余曲折がなければ何も分かりませんでした。
そして、紆余曲折するには、これと思ったものにまずは飛び込んでみることだと思います。
翻訳者になるのがゴールであれ、別の職業に到達する過程であれ、新卒の頃であれば、とにかく縁あった世界に飛び込むことが肝心だと思います。

成田あゆみ


1970年東京生まれ。英日翻訳者、英語講師。5~9歳までブルガリア在住。一橋大大学院中退後、アイ・エス・エス通訳研修センター(現アイ・エス・エス・インスティテュート)翻訳コース本科、社内翻訳者を経て、現在はフリーランス翻訳者。英日実務翻訳、特に研修マニュアル、PR関係、契約書、論文、プレスリリース等を主な分野とする。また、アイ・エス・エス・インスティテュートおよび大学受験予備校で講師を務める。

この記事をシェアしませんか?

背景画像
背景画像

CONTACT

通訳、会議・イベント運営、
翻訳、人材派遣/紹介、
法人向け通訳・翻訳研修などに関するご相談は、
こちらからお気軽にお問い合わせください。
お見積りも無料で承ります。