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ISSライブラリー ~講師が贈る今月の一冊~

2021.09.02

スキルアップ

第61回:本島玲子先生(中国語翻訳)

第61回:本島玲子先生(中国語翻訳)

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月は、中国語翻訳者養成コース講師、本島玲子先生がご紹介する『伊勢物語』(大津有一(校注), 岩波文庫, 1964年)です。
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コロナ禍で家にいる時間が長くなり、個人的にここ1年、かなり昔に読んだ本などを再度引っ張り出して読むことも多くなりました。
そして、ここ何か月か読みあさっているのが『伊勢物語』関連の書籍です。

『伊勢物語』は歌物語と言われるもので、平安時代に書かれた作品です。高校の教科書にも採用されていますし、皆さんもどこかで目にしたことがあるかもしれませんね。

私自身も大学では古典文学を専攻していたので、昔からかなり読み込んではいましたが、久しぶりに読んでみると新しい発見も多く、既に知っている物語という感覚ではなく新鮮な気持ちで読んでいます。

お恥ずかしい話ですが、高校生の頃は『伊勢物語』の和歌を読んでも特に心を動かされることもなく、在原業平の恋愛話ぐらいの印象しか持っていなかった気がします。
大学で更に深く学んでいくうちに、『伊勢物語』がそのあとの『源氏物語』にどのような影響を及ぼしたか、そして在原業平の和歌の素晴らしさなどを知ることになるのですが、やはり年齢のせいでしょうか、若い時に読んだ印象とは全く違って、和歌の内容に改めて感動することも多く、今までにないくらい引き込まれています。

和歌は31文字(五七五七七)で表現されますが、この限られた文字数に込められた意味の大きさを考えると、昔の人はこの文字数でお互いの気持ちのやり取りができていたのかと感心します。
現代で考えると、メールなどが31文字(五七五七七)しか使えないとなったら、きっとお互いの細かいニュアンスなどを伝えきることも難しくて、人間関係に支障をきたすと思います(笑)
そう考えると、昔の人はたったの31文字でも行間を読むということに長けていて、言葉に対しての感覚もかなり鋭かったのではないかという印象を持っています。

そして更に『伊勢物語』については既に色々な方が解釈本を出されているので、その解釈の違いなども比べてみたくて新たに関連書籍を購入したり、最近は久しぶりに本の虫と化しています。そしてこの読み比べる作業、実は翻訳の勉強をしていた頃の感覚に少し似ています。

『伊勢物語』の文章を「原文」、口語訳を「訳文」と考えるとイメージしやすいかもしれません。
訳す人によって表現が違うのは当たり前ですが、そういうところを比べながら読むのもすごく勉強になりますし、私が翻訳の勉強をしていた頃、ひとつの作品を複数の翻訳者が訳していたものを読み、ニュアンスの違いなどを比較するのがとても勉強になったのを覚えています。

ここで無理やり翻訳と結びつけようとしているわけではありませんが、『伊勢物語』の解釈本を読み比べるだけでも日本語のバリエーションが色々と見て取れますし、こういうことの積み重ねも自分の日本語の勉強になっているような気がします。

ふだんは中国語の翻訳の仕事をしているので古典文学とは無縁のように思えますが、古典文学を味わうことで日本語の奥深さに改めて触れることも多いので、今の仕事をしている限り、日本語の感覚を日々磨いていかなければならないという点では、こういうジャンルを読むのも無駄ではないかな、と思っています。

古典文学はちょっと…となかなか手が出ないという人も多いと思いますが、現代語訳になっているもの、更には漫画になっているものもあるので、時にはこのようなジャンルに手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。


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本島 玲子(もとじま れいこ)
國學院大學文学部文学科卒業。大学卒業後、高校で国語科教師として教壇に立ち、その後、翻訳者に。実務翻訳、映像翻訳など。日本語教師の経験もあり。
アイ・エス・エス・インスティテュートでは中国語翻訳者養成コース「本科1」を担当。
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