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2015.02.02

通訳

第2回:Who is “’TAni-sensei”? 英語の聞き取りと発音

第2回:Who is “’TAni-sensei”? 英語の聞き取りと発音

昨年日米の専門家が集まったある会議でのことでした。アメリカ側の参加者の一人が盛んに“’Tani-sensei”を連発します。日本語の「先生」を添えて敬意を表しつつ日本側参加者の一人に語りかけているということはわかるのですが、日本側出席者の名簿には、そういうお名前の方は載っていません。でも、直接話しかけているのですから、通訳もどなたへの呼びかけなのか、お名前を訳出しなければなりません。必死で名簿を見つめます。「あっ」と見つけたのは「大谷先生」です。「『大谷先生』まで『谷先生』になっちゃうんだ!」と驚きましたが、無事に通訳を続けることができました。

これは英語の弱音化(reduction)と呼ばれる現象です。英語では、日本語話者が想像する以上に、ストレス(強勢)のある強い音節は極めて強く、長く発音され、それ以外の音節はごく弱く短く発音されます。弱い音節の母音は消えてしまうことも少なくありません。例えば、appreciateという言葉は、[‘pRIshiei]*(語頭の[a]はごく弱く、あるかないかの[a]になるので[‘]で表記。大文字は強く発音し、[t]はサイレント)と発音されます。

日本語は、母音(あいうえお)だけ、もしくは子音と母音(かきくけこ等)で一つの音節を構成し、音節の長さはどれもほぼ同じですから、弱音化はほとんど起こりません。そのため日本人の耳には英語の弱音化された音節が聞取りにくいのです。

加えて英語にはリエゾン(連音)というルールがあります。語が連なると、前の語の語尾と次の語の語頭の音がつながり、文字とはかけ離れた、思いもよらない音として発音されるという英語特有の音声現象です。日本人には、読めばすぐわかる文も、聞取りが難しいという人が少なくありませんが、それはこうした英語音声の特徴がなせるわざです。例えば 初対面の相手が [aimfrmaKYAW] と自己紹介したらどうでしょうか。You are from a cow? いえいえ、まさか!Macaoです。Macaoは、日本語になると「マカオ」と3音節で、一音節ずつ明瞭に発音されますが、英語では[maKYAW]と2音節です。第2音節に強勢を起き、第1音節はごくソフトに発音(弱音化)されます。その上、文全体では、前の語fromのmとMacaoの[ma-]がリエゾン(連音)して、[aimfrma COW]と聞こえるのです。聞こえるだけではありません。実際そう発音されているのです!

リスニングと発音、イントネーションに関しては、何となく音を想像するだけで対応してきたという人も少なくないと思いますが、言語には文法があるように、音法ともいうべき音の規則もあるのです。日本語と英語の音声の規則性の違いを知的に理解したうえで、聞き取りと発音の練習を積むことが、聞取り強化と発音改善の近道だと思います。英語発音の改善にお薦めの最近の教材の一つは、Ann CookさんのAmerican Accent Training(第3版、CD付き)ですが、私がISSで訓練を受けていた頃、欠かさず実践したことがあります。それは毎週与えられた英語音声教材をすべて文字に書き起こすという作業でした。非常に労力を要しましたが、聞きとれない部分は、書き出すことができないので、どういうところが聞取れていないのか、一目瞭然でわかりました。前後の文脈と文法の知識から聞取れていない部分は、ほとんど容易に推測することができます。その推測をもとにもう一度聞いてみると、聞きとれていなかった語が見えるように聞こえてきました。「語尾と語頭がこんなふうにくっつくんだ!」と感動したものです。聞取りにくいのは、ほとんどがそれ自体では意味を持たない機能語の連なりです。それ自体に内容のある内容語は、明瞭に発音されるので、聞取りは比較的簡単です。アメリカで学んだ英語音声のストレスと弱音化、リエゾンの規則性が実際に見えてくると、聞取り能力は格段に進歩しました。音と音のつながり方も見えてきて、発音改善にも役立ちました。

最後に私たちにとって発音しにくい単語の発音のコツを2つご紹介します。弱音化とリエゾンのコツです。

・General ⇒ まずgen- ral, gen- ralとgenとralを離してゆっくり繰り返す。[n]の時は舌の先をきちんと上の歯茎の後ろ、[r]を発音する位置において下さい。そのまま[ral]と発音します。だんだんとスピードを上げてgenにストレスを起きralは弱く、つなげて発音します。いかがですか。Generalとnの後に[e]が入っていると思っているうちは、とても発音しにくいですが、こうすると簡単です。

・Catholic ⇒ この語も同じ要領です。Cath-lic, cath-licです。thの後の母音を落として、[th]から直接[l]を発音します。この時、舌の先は[th]の位置に置いたまま、上の歯と舌の先の間から洩れて来るthの空気を止めれば[l]です。その位置で[l]を発音した方が、喉の奥でこもった「う」のような音が伴い、英語の[l]らしく聞こえますよ。くれぐれもthの後の[o]は忘れて下さい。

東海大学エクステンションで発音矯正の講座を開いています。ISSでもしばらく前に発音についての講演の機会をいただきました。英文法と同様に音法?も、多くの人に伝えていきたいと思っています。

註:*本エッセイ―では、発音記号を覚えていない人にもわかりやすいよう、IPAの発音記号は使わずに音を表現しています。

石黒弓美子


会議通訳・NHK放送通訳者
USC(南カリフォルニア大学)米語音声学特別講座終了。UCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)言語学科卒業。ISS同時通訳コース卒業。國學院大學修士号取得(宗教学)。NHK-Gmedia国際研修室講師・コーディネーター。東京外国語大学等で非常勤講師。発音矯正にも力を入れつつ通訳者の養成に携わる。共著:『放送通訳の世界』(アルク)、『改訂新版通訳教本 英語通訳への道』(大修館書店)、『英語リスニング・クリニック』『最強の英語リスニング・ドリル』『英語スピーキング・クリニック』(以上 研究社)など

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