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Every cloud has a silver lining

2019.12.02

翻訳

第12回:医学用語の構造

今回は、なかなかとっつきにくい医学用語について考えてみましょう。

医薬翻訳を目指す翻訳者にとって難解なものに「医学用語」があります。日本語での「白血球」は一般用語としても医学用語としても同じ「白血球」ですが、英語では、一般用語としての”White Blood Cell(WBC)“と、医学用語としての”Leukocyte“の2種類が使われます。この後者の医学用語がなかなか解りにくいものです。

1.医学用語の歴史

医学の始まりは古代ギリシャ時代で、医学の父として有名なヒポクラテス(Hippocrates;Ἱπποκράτης)も古代ギリシャの人でした。
この時代に医学用語の基礎が出来たのですが、その母体はギリシャ語とラテン語でした。

例えば、古代ギリシャではすでに「がん(癌)」が知られており、ギリシャ語で”karkinos“と呼ばれていました。これは海や川にいる「カニ」を意味する言葉で、癌(固形癌)で死んだ人を解剖した時に体内に大きな「カニ」の様な形をした固まりが見つかったことに由来すると言われています。

https://pixabay.com/ja/vectors/カニ-癌-干支-記号-魚介類-312372/より)

このギリシャ語がラテン語に翻訳されて”Carcinoma(カルチノーマ/カルシノーマ)“となり、英語では「カニ」が翻訳されて”Cancer(キャンサー)“となりました。
この様に、多くの医学用語はその起源がギリシャ語とラテン語であり、ローマ時代に大きく発展しました。
近代になると、医学は更に発展し、それにつれて医学用語も多岐に及んできました。しかし、ドイツ語や英語などのアングロサクソン系の言語では言語構造が単純すぎて、新しい用語を作るのには向いていませんでした。そこで目を付けたのが、古代から続くギリシャ語やラテン語の造語能力でした。

2.医学用語(英語)の構造

冒頭で、白血球の医学用語が”Leukocyte“だと言いましたが、これもラテン語を基本とした用語です。このLeukocyteの構造を示すと以下の様になります。

Leuk   +   o   +   cyte
白い(語根)   接続母音   細胞、(血)球

このラテン語などを参考に医学英語では接尾辞(-emiaなど、単語の後にくっつく語)や接頭辞(hyper-など、単語の前にくっつく語)、結合形などをあみ出しました。
医学英語の構成要素には次のものがあります。

語根(ごこん)語幹とも言い、基本的な意味を表します。
例えばleukは「白(い)」を意味する語根です。
結合母音(けつごうぼいん)語根と語根や語根と接尾辞を結ぶ時に使います。
主にoが使われます。
結合型語根に結合母音連結する(語根+結合母音)ことで、語根を別の語根や接尾辞と結合出来ます。
接尾辞(せつびじ)語根や結合母音に連結して新しい言葉を作ります。
例えば、-emiaは「血症(けっしょう)」を意味していて、語根leukの後に付くことでleukemia(白血病)となります
接頭辞(せっとうじ)語根やその他の語の前に連結して新しい言葉を作ります。
例えば、hyper-は「過度の、行き過ぎた」」を意味していて、語根tension(圧力、張力)の前に付くことでhypertension(高血圧)となります。

つまり、これらの要素を組み合わせることで、いくらでも新しい医学用語が作り出せるようになりました。
ただし、組み合わせる際の原則が幾つかあります(例外も多いですが・・・)。
● 原則1: 語根と語根、あるいは語根と接尾辞は、原則として結合母音(大概はoですが、時としてi )をはさんで連結します。

pneum(語根:肺/呼吸) + o(結合母音) + bacillus(語根:桿菌)
⇒ 肺炎桿菌(pneumobacillus)

● 原則2: 接尾辞が母音(a、i、u、e、o)から始まる場合は、その直前に結合母音を入れない(省略する)。

hepat(語根:肝臓) [+ o(結合母音)←省略]+ itis(接尾辞:炎症)
⇒ 肝炎(hepatitis)

● 原則3: 語根は連結形(語根+結合母音)で使用し、原則として単独では使用しない。

hepat(語根:肝臓)+ o(結合母音)
⇒ 肝臓の(hepato-)

この3つの原則を覚えておかれると、知らない医学用語に遭遇した場合でも、なんとなく想像がつきます(ただし、ちゃんと調べて確認を取ること)。

一方、気をつけなければならないのは、単に器官(臓器)の名称を述べるときは、本来の英語を用いると言うことです。
例えば「心臓の」という形容詞の場合は”cardio“というラテン語系の用語を使いますが、心臓自体を表す名詞の場合は”heart”という英語で表現します。
同様に、「肺の」という形容詞の場合は”pneumo“とか”pulmo”となりますが、肺自体の名詞は”lung”となりますし、「腎臓の」という形容詞の場合は”nephro“となりますが、腎臓自体の名詞は”kidney”とします。

3.よく見かける用語

1)人体の器官(語根)

語根結合母音意味
adeno腺(gland)adenoma(腺腫、アデノーマ)
angi, vaso血管(vessel)angiography(血管造影)
cardio心臓(heart)cardiovascular(心血管系)
derm, dermato皮膚(skin)dermatology(皮膚科学)
duodeno十二指腸(duodenum)duodenorrhaphy(十二指腸縫合術)
encephalo脳(brain)encephalocele(脳ヘルニア)
entero小腸(small intestine)enterococcus(腸球菌)
esophagio食道(esophagus)esophagodynia(食道痛)
gastro胃(stomach)gastritis(胃炎)
gingivo歯ぐき、歯肉(gum)gingivosis(歯肉症)
hepato肝臓(liver)hepatocyte(肝細胞)
lymphoリンパ(lymph)lymphocyte(リンパ球)
mamm, masto乳房(breast)mammography(マンモグラフィー)
myelo骨髄(bone marrow)myeloma(骨髄腫)
nephro腎臓(kidney)nephropathy(腎症、ネフロパシィ)
prostato前立腺(prostate)prostatography(前立腺造影)
recto直腸(rectum)rectocolitis(直腸結腸炎)
stomato口(oral、mouth)stomatitis(口内炎)
tonsilo扁桃(tonsil)tonsillotomy(扁桃腺切除)
uter, hystero子宮(uterus)uterocervical(子宮頸部の)

2)その他(語根)

語根結合母音意味
aer、pneumo空気(air)aerobics(エアロビクス)
carcinoがん、癌(cancer)carcinoma(がん、がん腫)
chemo化学(chemical)chemotherapy(化学療法)
chrom、chromato色(color)chromatograph(クロマトグラフ)
cyto細胞(cell)cytotoxicity(細胞毒性)
derm、dermato皮膚(skin)dermatologist(皮膚科医)
diplo2(two、double)diplococcus(双球菌)
erythro赤い(red)erythrocyte(赤血球)
fibro繊維(fiber)fibroblast(繊維芽細胞)
glyc、gluco糖(suger)glycogen(グリコーゲン)
hem、hemato血液(blood)hematocrit(ヘマトクリット)
hydr、aqueo水(water)hydrocarbon(炭化水素)
leuk、leuco白い(white)leukocyte(白血球)
lipo脂肪(fat)lipoprotein(脂肪蛋白)
macro大きい(large)macrophage(マクロファージ)
melano黒い(black)melanocyte(メラニン細胞)
micro小さい(small)microwave(マイクロ波)
muco粘膜(mucus)mucolysis(粘膜溶解)
mono1(one、single)monocyte(単球、短核白血球)
myelo骨髄(bone marrow)myelogenesis(骨髄形成)
nulli無(none)nulligravida(未産婦、未妊婦)
pol、multy、i多(many)polymorphism(多型、多様性)
pseudo偽の(false)pseudomonas(シュードモナス菌)
psych、phreno精神、心(mind)psychopathy(精神病質)
sarco肉(flesh)sarcoma(肉腫)
thermo熱、温度(heat)thermometer(温度計、体温計)
toxo毒(toxin)toxoplasma(トキソプラズマ)

3)代表的な接尾辞

接尾辞意味
-algia痛(pain)neuralgia(神経痛)
-blast芽細胞(embryonic cell)fibroblast(線維芽細胞)
-cyte細胞、血球(cell)erythrocyte(赤血球)
-ectomy切除(excision)gastrectomy(胃切除)
-emia血症(a condition of the blood)hyperlipidemia(脂質異常症、高脂血症)
-itis炎症(inflammation)bronchitis(気管支炎)
-logy学問、研究(knowledge)biology(生物学)
-lysis崩壊(destruction)hemolysis(溶血)
-mania躁状態(manic state)megalomania(誇大妄想)
-metry計測法(measuring)anthropometry(人体測定)
-oid~様の、~状の(status)adenoid(腺様の)
-oma腫瘍(tumor)melanoma(黒色腫)
-orrhagia出血(bleeding)encephalorrhagia(脳出血)
-osis症(abnormal condition)osteoporosis(骨粗しょう症)
-otomy切開(incision)gastrotomy(胃切開)
-pathy病気(disease)enteropathy(腸疾患)
-pepsia消化(digestion)dyspepsia(消化不良)
-plasty形成術(surgical repair)autoplasty(自家移植)
-scopy検査法(test method)microscopy(顕微鏡検査)
-trophy発達、栄養(growth、nutrition)hypotrophy(発育不全)
-uria尿症(urin)polyuria(多尿症)

4)代表的な接頭辞

接頭辞意味
a-無、否定(not、without)asymptomatic(無症状)
ab-離れて(away)abnormal(異常な):ab-離れて、
normal正常な⇒正常状態を離れて
dia-、trans-通過する、横切る(through)diagnosis(診断):dia-横切って、
gno知る⇒(体を)横切って知る
dys-、mal-悪、困難(bad、difficult)dyschezia(排便障害)
malacic(軟化した)
epi-上(upon)epidermis(表皮):epi-上、
derma真皮⇒真皮の上=表皮
eu-良、良好(good)euchromatic(真正染色質の)
ex-、ecto-外、外側(outside)ectodermal(外胚葉)
hyper-以上、過剰(over)hypertension(高血圧)
hypo-以下、過小(below)hypotension(低血圧)
in-、im-(m、b、pの前)否定(not)immunity(免疫):im-否定、mun変わる、
-tyこと⇒いつも変わらない力
in-、endo-内、内側(inside)endocrine(内分泌)
meta-、ultra-超える(beyond)metastasis(転移):meta-超える、
stasis停止、均整⇒均整状態を超える
para-異常(abnormal)paranoia(妄想、パラノイア)
peri-周辺(around)peripheral(末梢の)
post-、retro-後(after)postoperational(手術後に)
retrospective(後向きに、回顧的)
pre-、pro-前(before)preoperational(手術前に)
prospective(前向きに、有望な)
sub-下(under)subcutaneous(皮下):sub-下、
cutaneous皮膚⇒皮膚の下

4.よく耳にする略語

お医者さんや看護師さん、薬剤師さんなどと話していますと、略語(いわゆる業界用語)が結構使われていますので、よく使われている略語もまとめてみました。
また、SDV(原資料等の直接閲覧)時などに確認する症例記録(カルテ)に書かれていることも多い略語類です。

略語意味(英語)意味(日本語)
アタックattack発作:心臓発作やてんかんの発作、
脳卒中の発作などが起こった時
アッペappendicitis虫垂炎:いわゆる盲腸
アドミッションadmission入院すること、入院患者
アナムネanamnesis既往歴、病歴、既往歴を聞くこと
アレストarrest心停止
アンギオangiography血管造影
インオペinoperable(患者や腫瘍などが)手術不可能な
インキュベーションincubation培養、孵化
インチュベーションintubation挿管
エッセンessen(ドイツ語)食事、食べること
エピepilepsyてんかん、てんかん患者
MRSAMethicillin resistant Staphylococcus aureusメチシリン耐性黄色ブドウ球菌:院内感染の原因菌
オートクレーブautoclave殺菌用の圧力釜滅菌:121℃、2気圧で20分処理
オートプシーautopsy解剖、剖検、病理解剖:死後に死因などを調べるための解剖
オーベンoben(ドイツ語)指導医:研修医などを指導する立場の医師
キセツbronchotomy気管切開(気切)
キョクマlocal anesthesia局所麻酔(局麻)
キンチュウintramuscular injection(im)筋肉内注射(筋注)
グル音bowel sound腸蠕動音:お腹がグルグル音を発すること
ケモchemotherapy化学療法:薬などの化学物質を投与する治療法
コアグるcoagulation凝固させる、凝固が起こる
ザーsubarachnoid hemorrhage(SAH)くも膜下出血:いわゆる脳出血
シェーマschema図解、絵図、図式、フローチャート
シャウカステンschaukasten(ドイツ語)X線写真などを見る装置。不透明なプラスチック板の裏に蛍光灯が並んでいる。
シュワンゲルschwanger(ドイツ語)、pregnancy妊娠、妊娠している
ジョウチュウintravenous injection(iv)静脈注射(静注)
シンカテcardiac catheter test心臓カテーテル検査
ステるsterben(ドイツ語)死亡、死ぬこと
ゼクるsektion(ドイツ語)解剖する、剖検する。
動物での毒性試験で、動物を屠殺して解剖し、臓器などを詳しく調べる行為
セッシpincette〈フランス語〉ピンセット(鑷子)
ゼンマgeneral anesthesia(GA)全身麻酔(全麻)
ゾロGeneric medicine後発品:あとからゾロゾロ出てくる
テイセツCaesarean operation帝王切開(帝切)
ドウチュウarterial injection(ai)動脈注射(動注)
ドレーンdrain創傷部にたまった液、尿などの排出に用いる排液管
ネーベンneben(ドイツ語)研修医
バイオプシーbiopsy生検・生体組織診断
フラッシュflash点滴ラインなどの管内にたまっている液体を押し流す(ルート内の薬液を洗い流す)こと。
ヘモhemorrhoid痔核
ベンチレーターventilator人工呼吸器
ポリクリPolyklinik(ドイツ語)医学部高学年における病院実習
ムンテラMund Therapie(ドイツ語)病状を患者から聞き取ること。病状を患者に説明すること
メタmetastasis(癌などの)転移
メレナmelena下血、メレナ、黒色便:便に血が混じって黒くなった大便
ラプチャーrupture破裂(動脈瘤などの)
ラ氏島islet of Langerhansランゲルハンス島:膵臓にあるインスリンを分泌する組織
ワ氏Wassermann reactionワッセルマン反応:梅毒検査の手法
BMIBody mass index肥満度指数
BPblood pressure血圧
BTbody temperature体温
BSAbody surface area体表面積
CPRcardiopulmonary resuscitation心肺蘇生
CTcomputed tomographyコンピューター断層撮影
CVcurriculum vitae(ラテン語)履歴(書)
HRheart rate心拍数
IBinvestigator's brochure治験薬概要書
ICinformed consent文書による説明を受けたうえでの同意:インフォームドコンセント
poper os(ラテン語)経口
QOLQuality Of Life生活の質
RxPrescription、Recipe(ラテン語)処方、処方薬
scsubcutaneous injection皮下注射
TIAtransient ischemic attack一過性脳虚血発作
usultrasonography超音波検査
バイタルvital signバイタルサイン
カルチcarcinoma
ツモールTumor腫瘍⇒癌
コンタミcontamination汚染。異物が混じること
タヒるtachycardia頻脈になる、頻脈が出る
デプるdepressionうつ(状態)になる
ハルンHarn(ドイツ語)、urin尿
セイショクsaline生理食塩水(生食)
CBCcomplete blood count血算:全血中の赤血球、白血球、血小板などの細胞数を計測すること
セキチンerythrocyte sedimentation rate(ESR)赤血球沈降速度
ロイコleukocyte白血球
ニュートロneutrophil好中球
エオシノeosinophil好酸球
バソbasophile好塩基球
FFPfresh frozen plasma新鮮凍結血漿
アポるApoplexy脳卒中を起こすこと
n.p.nothing particular特になし、特に異常なし、問題なし
doditto繰り返し:前回の診察時と同じ薬を処方すること(do処方ともいう)
同上

以上に挙げたのはほんの一部ですが、これらの用語や略語は大概、英語と日本語が1対1で対応していますので、一度覚えてしまえばその後は楽に使うことができるでしょう。

津村建一郎


東京理科大学工学部修士課程修了(経営工学修士)後、およそ30年にわたり外資系製薬メーカーにて新薬の臨床開発業務(統計解析を含む)に携わる。2009年にフリーランスとして独立し、医薬翻訳業務や、Medical writing(治験関連、承認申請関連、医学論文、WEB記事等)、翻訳スクール講師、医薬品開発に関するコンサルタント等の実務経験を多数有する。

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