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通訳キャリア33年の 今とこれから 〜英語の強み〜

2025.12.01

通訳

第24回:通訳の勉強法 今・昔

さて、もう師走ですね。Time fliesですね。
今年の繁忙期もあと数週間で終わりを迎えると思います。あと数週間、身体に気を付けてクライアント様にご迷惑をおかけしないようにがんばりたいと思います。そして終わったら来年までの数週間を友人と会ったり、家族と過ごして英気を養いたいと思います。

今月のタイトルは「通訳の勉強法 今・昔」ということで、私がISSへ通っていた頃(30年以上前)から今日までの軌跡をテクノロジーも含めて振り返ってみたいと思います。そしてAIが日々の仕事へ入ってきている昨今、これからの勉強法、そして通訳としてどうサバイバルしていくかということを今月と来月と二か月に渡って私の見解を書いてみたいと思います。

さて今は昔の1991年秋、アメリカから帰国した私は中東出張を機に通訳になることを決意し、ISSの門をたたき入学しました。これは「通訳」の勉強をしないとやっていけないとそこからスタートしました。4年間米国留学をしたので英語は出来るけれど、通訳のスキルはそれとは別と覚醒し、ちゃんと訓練をしないといけないと痛感したのです。入ったのは一番上の同時通訳クラスの一つ下、結構上のクラスです。とてもよくできる、完成間近のクラスメイト達がいる環境でした。

留学生としての、米国大学院での勉強との大きな違いは、通訳の世界では、全ての英語には日本語の訳ありき、というとことでした。英語で英語を理解し論文を書くという英語完結の世界ではなく、英語を頭の中で日本語に変換して理解するまたはその反対方向でできることが必須。初めの頃は、脳の中に日本語と英語を隔てる膜があると感じました。その膜を浸透できなくて、英語で聴いても英語の膜の中側で詰まってしまい、膜を超えて日本語の領域に行ってくれることはありませんでした。
そこで教材のテープを何度も何度も聴いて、訳せるまで聴きとれなかったところで止めて、一文ずつ訳すことをしました。結果、ISSのクラス教材のトランスクリプトA4一枚訳すのに午前中いっぱいかかってしまったこともありました。そしてある朝自宅で、急に前触れもなくやっとISSの教材を同時通訳することができるようになりました。あの時の感覚は今でも覚えています。頭の中の膜が貫通して、自由に英語と日本語の原子が浸透圧で行き来できるようになった感覚でした。今でも同時通訳会議のできが悪い案件の時は、この膜の行き来がうまく行かないなと感じます。それはその時の体調であったり、会議の雰囲気であったり理由はいろいろです。

ここでテクノロジーの解説をします。この頃は、カセットテープという茶色の媒体に音声を録音し、カセットデッキで再生し、録音の尺のカウント数を見つつターゲットの文章のところで止めて聴きなおすというとても時間のかかる作業をしました。若い方、この機器が何なのかわからなければ親御さんに聞いてみてくださいね。
本屋では、「オーディオブック」が販売されていて、これも茶色のテープに英語の原書の内容を外国の声優がオリジナルの言語で吹き込んだものを売っており、私はそれを聞いていました。
その後テレビ媒体として衛星放送やCNNが登場しましたので、ビデオデッキを買って、ビデオテープに録画し、やはりカウント数を見ながら何度も何度もテープを止めて録画の音声を聴きなおしてヒアリングの訓練をしました。
ビデオは止めると機械自体が「ガチャ」といって止まります。つまり機械のメカ劣化が進みます。通訳学校時代とその後の通訳時代を含めて、我が家は3台のビデオデッキを買い替えました。これも投資ですね。

そしてインターネット時代の到来になりました。資料の中でわからないことはネットで調べることができるようになり、まるで魔法みたいだと感動したことをおぼえています。ヒアリングはiPadで『Economist』などの音声版を年間購読し、毎週ダウンロードして聴きながらシャドーイングや同時通訳の練習をしていました。ポッドキャストも利用しました。 読む方はやはりiPadにNew York TimesやForeign Affairs Magazineを購読し、毎日ニュースをダウンロードし読んでいました。これは単語や英語としてより良い表現を拾うためです。
この欠点は、iPadのメモリがすぐいっぱいになってしまうことです。終わったら削除する作業を続けなければなりません。テクノロジー的には、まだダウンロードをして聴いていましたし、どちらかと言えば「静的」な勉強でした。でも電車の中や移動中にヒアリングの訓練ができるようになったので、これは大きなプラスでした。それまでは、茶色のテープをソニーのポータブルデッキに入れて持ち歩いて聴いていましたが、やはり不便で、勉強は家に帰ってからでないとできないという時代でした。

その後YouTubeが登場しました。最初は英語の教材としては考えていなかったのですが、徐々にコンテンツが充実してきて、アカデミックな内容、経済外交、科学技術も豊富になり、試しに聞いてみたらびっくりするほどクオリティも高く多様性に富んでいました。また更新のタイミングも速くて、ポッドキャストよりも新しくフレッシュな内容が早く入手できるので、今は専らYouTubeで勉強しています。なんといっても聴く速度を調整できるので、初心者には0・8倍、通訳訓練には1.25倍~など用途で速度をカスタム化できるのが画期的です。やり方は自分の専門分野を探してチャンネル登録をし、更新があればそれを優先して聴いています。YouTubeはしかし、正確でない情報や印象操作ではないかと思われる内容もありますので、聞き手の判断が問われます。
私の分野はテクノロジーですので、印象操作は入る余地もなく、日々新しい内容を聴いています。特にITの分野は内容が豊富で、各IT企業(Microsoft、GoogleやAmazonなど)のチャンネルに登録して、大きなコンファレンスがアップされた時は必ず聴きます。新製品やAIの今後を知るためには必須です。またサイバーセキュリティの分野も専門なので、SANSなどのチャンネル登録をして新しい攻撃や技術を知ることができます。

このように紙ベース、自宅ベースの時代から、どこでもいつでも移動中でも勉強できる時代になりました。こんなに恵まれた環境です。「通訳になれない」理由はなく、本人の自覚と努力次第だと言えるでしょう。今からの時代は、勉強法と言われるとテクノロジーなくしては語れません。またそのテクノロジーが反対に通訳という職業に脅威を与えるということも起こり得ます。

私はと言えば、今でも仕事そして仕事以外の自分のスキルアップの勉強は続けています。移動中も含めて毎日です。散歩中は、頭の中で同時通訳をし、家ではイヤホンを使わずに、現場の環境にしてスピーカーを使用して聴いています。

今月は「勉強法の今・昔」について書きました。
来月以降は、今後の通訳業界の展開、求められるスキルとそれを得る道筋、そしてその後の世界などについても書いてみたいと思っています。

それでは、12月はいろいろと楽しいことがありますので、思いっきりエンジョイしてください。

相田倫千


大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。

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