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相田倫千のプロの視点『通訳キャリア33年の今とこれから 〜英語の強み〜』

2026.03.02

通訳

第27回(最終回) Be a silent challenger.

アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 相田倫千

皆さまこんにちは。毎回、皆さまへのあいさつから書き始めてきたコラムですが、これが最後になります。名残惜しいですが、今月でコラムシーズン2は終章を迎えることとなりました。

最後の章なので、何か皆さんにメッセージと共にしめくくりたいと思います。

私が通訳になったきっかけや勉強法、スキルアップ方法などについては、これまでに語りつくしてきましたので、今回は、私のいつも心に置いている言葉、通訳だからこそ出会えたもの、得たもの、そして通訳キャリアを支えてきたものを中心に書いていきたいと思います。

まずは、心に置いている言葉、「Last man standing」と「Be a silent challenger」です。

Last man standingは、最後まで残ったものが勝つ、という意味です。勝ち負けではなく、最後まで諦めずに続けた者が残って、機会を得て恩恵に与かるということだと解釈しています。私が今通訳としてよい状態なのは、才能や努力だけではありません。通訳学校での同級生の中には、とても優秀な方がいました。でも、家庭の事情(お子さんのご病気など)、ご主人の海外転勤、本人の健康上の理由などで、途中で通訳から撤退する、海外へ行く、治療のため地元に戻るなどで、続けることができなかった友がいます。とても残念でした。その友人を送りに行ったときには、涙が溢れました。彼女たちの思いを引き継いで私は頑張っていこうと思ったものでした。またコロナがきっかけで引退された先輩や同僚もいます。30年以上経った今、諦めずにずっとやって来たこと、やって来られた運も成功した理由の一つだと思います。「勝つ」ではなく「恩恵を得る」と訳したいですね。

そしてBe a silent challengerです。常に先を見て新しい分野や職業に静かにチャレンジしていくという解釈をしています。今は外部からの「承認」を求める人が増えていると感じます。SNSで自分が何をやっているか、どれだけ有能で充実しているかを披露し、やっていることを喧伝し「いいね!」をもらったり、羨ましがられたりすることに意義を感じる人が多いと感じます。

その中で、自分がやっている「壮大なプラン」や「新しい分野」を黙って着々と、人に賞賛されずに人目につかずにやり遂げることを座右の銘にしています。自分のペースで自分がこれと思う分野を着々と進めていくのです。海外のビジネスでも、自分の手の内を見せるなと言います。これは隠して秘密にするのということではなく、他人の評価に惑わされずに冷静に自分の世界を築いていくことを意味します。他人の目がないので、失敗しても誰も気づきませんので、失敗もできます。そして、最後には「あっ」と言わせるのです(笑)。賢く静かに次の準備をするということを目標にしてきました。案件を受けたときに「この新しい分野、よくできますね」と言われることがありますが、その分野を数年前かけて目標を立て計画を実行して静かにひっそりと準備をしていたのです。

次は通訳だからこそ出会えたもの、得たものですが、これはもうたくさん過ぎてここに書ききれません。心に残った案件のコラムで書いた人間味のある温かいクライアントさんも勿論のこと、やはりメディアにも登場する有名人や企業のCEO、政治家に会えたことは通訳だからこそだと思います。普通の生活では絶対に会えない人々と会って、通訳をして差し上げて、その時間や瞬間を共有することができたのは、私の人生の宝です。世界的に著名な方々のエネルギーやオーラに触れ、覚悟や視点の違いを感じました。

また自分では行けない国へ出張で行くこともでき、安全が確保された状態で観光をすることができたこと、例えば中東などの国です。イランへ行ったときには、美しい国で、優秀な人優しい人が多く、国民は貧しく、悲しい思いをしたことを思い出します。イスラエルでは現地の人とすぐに打ち解けて冗談を言い、毎日「日本食もどき」をご馳走してもらったこと。これらは通訳者にならなかったら、できなかった体験だと思っています。

そして最後は、友人です。同業者だと友人関係は難しいと言われますが、必ずしもそうではないと思います。特に私のようにある年齢を超えると、すべての人に対して、「人間性」を見るようになることと、通訳者同士に時にはある「競争」のエネルギーがなくなってしまうのもあるかもと思います。年下の通訳さん達は愛しくて、この先この業界を頼むよと思うし、これからも通訳業界が繁栄して、これからの人たちも豊かに人生を送れますようにと思ってしまいます。同僚も、今までよくやって来たよねという共感と敬意を抱きます。友人たちは色々と教えてくれることも多く、貴重な出会いでした。

最後に、通訳のキャリアを支えて来たものです。

第一には、言葉が大好きで通訳が大好きであったこと。第二は、家族への貢献の気持ちと自立の精神。第三は、私の訳で助かる人がいるという事実と義務感でしょうか。

言葉の鍛錬には終わりはありません。今日の会議でこう訳したけれど、もっといい訳分かりやすい表現はないものかといつも思いながら生活をし、英語を視聴し小説を読んでいます。私は江戸時代を舞台にした小説が好きなのですが、テクノロジー分野の通訳と江戸時代の商人、一見全く関連性がない世界を行き来していることが、表現という意味ではとても役に立っています。やまと言葉で「テクノロジー」をわかりやすく訳すということが楽しいのです。

そして家族への貢献。経済的に貢献できることで、色々な杖が用意できます。人生長い、何があるかわからない、その時点では何の心配もリスクもないように見えても、その先には何があるか、全く見えません。今は人生100年といわれています。貴方が今30歳だとして、あと70年間絶対に安心安全が続くと言えますか?ほとんどの人は言えないと思います。子供などの扶養者を抱えている場合、その子の人生に対する責任もあります。私は2人の子を持つ母親ですから、彼らが独立するまでの責任がありました。何かあった場合、経済的な側面も含めて代わって責任を引き継ぐミッションが、私のモチベーションとしてここまで来ました。今は2人とも独立をしており、ここまでよくやって来られたなぁと感慨ひとしお、ホッとしています。

最後は、私が訳すことによって助かる人達がいるということです。英語が曖昧なまま大きなプロジェクトや契約を進めると、損をするのは大体日本側だという経験が多かったからです。でも「肝」となるところをしっかりと押さえ伝えるということをしてきました。通訳も日本産業界の一員です。それをいつも心に置き、日本の産業工業に通訳の立場で貢献しようと思ってきたのも大きいです。

さて最後に皆さんへのメッセージです。

イタリア開催のオリンピックを観ていて、若い世代は多様性に富んでいて素晴らしいなと感心します。新しい世代が育っているなと。

そして新しい政権が発足しました。国内重点産業への投資を増やし産業育成をするとのこと。

通訳者もそれに貢献し、豊かな国を一緒に作っていただきたいと思います。

人生は長い。経済と社会が豊かになれば、その恩恵は長く続き、今の若い人達が老人になっても続きます。その恩恵を享受するため、まずここから5年の自分計画を立て、その先の10年、20年後の自分を考え、還暦頃には何をしているのか、どうしたいのかを明確に考えてください。

しっかりとイメージを持ち、それに向かって一歩ずつ静かに歩んでください。他人の賞賛はどうでもいいことなのです。

100年生きると考えて、健康や収入や多様な側面でどうやって行くのか、キャリアはどうするのか、今から青写真を描いてください。

私も自分が90歳になった時の計画をまさに今描こうとしています。時にはサボって、たまに無駄遣いして生きていくことでしょう。

通訳には全く関係ないのですが、毎日「1%の改善」をし、毎朝「昨日の感謝3点を書く」をしています。英語のYouTubeで得た生き方です。毎日1%改善すると、365日経つと複利的に改善が積みあがります。こういった小さなことの積み重ねで大きなことへとつながると思います。

そしてBe a silent challenger.

皆さん、お元気で!!

相田倫千


大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。

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