中国語表現コラム~更上一層楼(更に上へと)
2026.08.04
スキルアップ
第131回 「中国語の酸、甜、苦、辣-酸」
アイ・エス・エス・インスティテュート 中国語ビジネスコミュニケーションコース講師 張意意
目次
「人生酸甜苦辣五味杂陈」
中国語には「人生酸甜苦辣五味杂陈」という言い方があり、「人生には、喜びや苦しみなど、さまざまな味わいが入り混じっている」という意味を表します。直訳すれば「人生には、甘味・苦味・酸味といった多様な経験が入り混じり、複雑な様相を呈する」となります。
ここで挙げられる「酸・甜・苦・辣」は、舌で感じる味覚にとどまらず、より広い比喩的意味を担っています。
今後、数回に分けて各「味」のもともとの意味と、そこから広がって生まれた意味を順に確認していきたいと思います。今回は、まず「酸」を取り上げます。
中国語の「酸」について
「酸」の本義は「酢のような味」であり、酸味・酸っぱさ・酸甜(甘酸っぱい)・酸涩(渋みのある酸味)などの味覚を指します。「酸菜(漬物)、酸梅(干し梅)、酸奶(ヨーグルト)」などが典型的な用例です。
ほかに、化学領域では、水溶液中で電離し水素イオン(H⁺)を生じる化合物を指し、無機酸・有機酸を含みます。塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、酸碱度(酸塩基度)、強酸、弱酸などが代表的です。 例:盐酸与金属反应放出氢气。(塩酸は金属と反応して水素を発生します。)
「酸」はこのような味覚の領域から大きく意味が広がり、情感・体感・社会評価・化学・気象・腐敗など、多層的な語義体系を形成しています。
日中間で誤解しやすい、体感の「酸」
特に日中間で誤解が生じやすいのが、体感の「酸」です。中国人が日本で歯科を受診した際、「先生、歯が酸っぱいです」と言ってしまう例はよく知られており、通訳の誤訳例としてしばしば取り上げられます。中国語では「牙酸」「腰酸背痛」「肩膀酸痛」などがごく普通に使われるためです。
体感としての「酸」は、筋肉の疲労、軽い痛み、だるさ、力の入らない感じ、張り、重さを表します。よく使われる例として「腰酸腿疼,可能是久坐造成的。(長時間座ったことによる腰や脚のだるさ)」があります。日本語の「酸っぱい」にはこの意味がないため、「背中が酸っぱくて痛い」という直訳は誤りとなります。
日本語にない情感と社会的評価の「酸」
情感の「酸」も日本語には存在しません。感情領域では、「酸」は辛酸・心痛(悲しみ・辛さ・胸の痛み・切なさ) を表します。「酸楚」「酸怆」「心酸」「酸苦」などの語が用いられます。 例:「谈起年轻时的困境,她心酸地笑了笑。(若い頃の困難を語りながら、彼女は心が痛むように笑いました。)」
また、社会的評価としての「酸」は、迂腐(頭が固い)・貧寒・文人臭さ・気取った感じを表します。「酸秀才(貧しい文人)」、「穷酸书生(貧乏くさい書生)」、さらに「这人说话太酸,令人不舒服。(言い方が気取っていて鼻につく)」などが典型です。ここでの「酸」は、貧乏くさい・気取っている・文人臭いといった否定的ニュアンスを帯びます。
最後に、食物が腐敗して酸味を帯びることを指す用法があります。「牛奶酸了、不能喝。(牛乳が酸っぱくなって飲めません。)」のように、変質した食品を述べる際に使われます。
以上のように、中国語の「酸」は、味覚から体感、情感、社会評価、化学、さらには腐敗まで、多方向に意味が広がる語であり、日本語の「酸っぱい」とは語義範囲が大きく異なります。とりわけ、体感・情感・社会評価の用法は日本語に対応語がなく、日中翻訳で誤解が生じやすい領域です。
次回は、「甜」についてです。ご期待ください。
今月の中国語新語:神兽
神兽:原指中国古代神话中的青龙、白虎等异兽。现成为网络流行语,指调皮难管的孩子,表现出家长的无奈。开始于疫情期间在家上网课的未成年孩子常被昵称为“神兽”。
神獣(シェンシュウ)は、本来、中国古代の神話に登場する青龍・白虎などの霊獣を指す語です。現在ではインターネット上の流行語として用いられ、手に負えない子ども、特に小学生を比喩的に表す言い方となっています。保護者が抱く困惑や疲労感を含意する語でもあります。新型コロナウイルス流行期に未成年が自宅でオンライン授業を受けていた状況を背景に、こうした子どもたちがしばしば「神獣」と呼ばれるようになりました。
例:
暑假在即,神兽们很快就要回归故里。安静的家从此将会变得天翻地覆,鸡飞狗叫。
夏休みが目前に迫り、「神獣たち」はまもなく故郷へ帰還することになります。静けさを保っていた家は、これから一転して大騒ぎとなり、混乱の渦に巻き込まれることになるでしょう。
張 意意
ビジネスコンサルタント。中国北京外国語学院卒業。証券会社を経て、現在、コンサルティング会社経営。現役通訳者、翻訳者としても活躍中。アイ・エス・エス・インスティテュートでは「ビジネスコミュニケーションコース」を担当。企業や業界のニーズを把握し、中日間のコミュニケーションを円滑に進めるために、受講生に最新の動向を紹介しながら、指導を行っている。
※記載されている会社名、商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。
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