ワンランクアップの英語表現
2015.12.01
スキルアップ
第78回 生きものが出てくるフレーズ
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
随分前にオペラ関連の仕事で通訳をする機会がありました。そのときの演目はヴェルディの喜劇「ファルスタッフ」。もとはシェイクスピアの作品です。オペラ自体はイタリア語だったのですが、lettera は英語で letter、geloso は英訳すると jealous など、イタリア語と英語が近い言語であることを感じました。今でも印象的だったのが、mostro という言葉。こちらは英語に直すと monster(怪物)です。女癖が悪い大酒飲みの主人公ファルスタッフを女性たちが mostro と呼ぶ一節が歌詞の中では出てきます。

今月は生きもの関連のフレーズを見てみましょう。
1.monstrously ものすごく、途方もなく、怪物のように
The project sounds monstrously difficult but I’ll have a go at it anyway.(そのプロジェクトはものすごく難しそうだけど、いずれにしてもやってみますね。)
monstrously は「怪物」monster から派生した単語で、monstrous という形容詞は「ものすごい、巨大な、怪物のような」という意味です。-ly がつくことで、副詞になります。英英辞典で monster を引くと、「想像上の生きもので巨大、醜くて恐ろしい」という説明があります。一方、ユーモア的なニュアンスを伴い、「行儀が悪い子」と小さな子どもを表すときにも使います。そういえば日本語でも「うちの怪獣」と自分の息子について語ることがありますよね。
ところで monster → monstrous のようなスペル変化をする単語は他にあるのでしょうか?このようなときには電子辞書の「ワイルドカード検索」機能が役立ちます。私が持っている電子辞書なら「シフト」キーの後に「L」を押すと検索画面が立ち上がります。そのあと、「~strous」と入力すると3つの単語が出てきました。disastrous, lustrous, monstrous です。disaster → disastrous、luster → lustrous なのですね。こうしてほかの単語をついでに引くのも楽しい作業です。
2.serpentine 複雑で理解しがたい
The plot of the play was serpentine and it was difficult to understand. (劇の筋は複雑で、理解するのが難しかったです。)
「複雑で理解しがたい」を英語では serpentine と言います。serpentine は「ヘビ状のもの、曲がりくねったもの」という意味で、そこから今回ご紹介するような語義になりました。serpent はヘビの中でも大きく有毒な種類を含みます。snake の方は serpent に比べると小型なのですね。serpent は「ジーニアス英和辞典」によれば、「悠久・再生などの象徴」なのだそうです。なお、みなさんは「アスクレピオスの杖」という言葉を聞いたことはありますか?これはギリシャ神話に出てくる医師アスクレピオスが持っていたヘビの巻き付いた杖のことです。救急車や医療関係のシンボルとして今でも使われています。アスクレピオスの杖について英語で調べると、やはり serpent という語が出てきます。ヘビと人間は古代から関係があったことがわかります。
ちなみにロンドンのハイドパークには The Serpentine というS字型の池があります。お隣のサーペンタイン・ギャラリーは観光名所になっています。
3.have a frog in one’s throat 声がしわがれている
Are you alright? You sound as if you have a frog in your throat! (大丈夫?声がしわがれているよ。)
have a frog in one’s throat は「声がしわがれている」という意味です。「のどにカエルがいる」と表すのが興味深いですよね。ちなみに frog の鳴き声は croak です。カエルは他にも toad がありますが、こちらは「ヒキガエル」という意味になります。
英語で frog と言うと、豊穣や不浄、進化など良い面も悪い面も表す単語のようです。a big frog in a small pond は「小さな組織の中の大物」という意味で、「井の中の蛙」ではないことに注意しましょう。
ちなみに「しわがれる」は漢字で書くと「嗄れる」です。「口」と「夏」が組み合わさってできた漢字で、「夏の暑さで草がかれるように声がかれる」という様子を表しています。私はこの原稿を書くまで「しわがれる」は「皺」と関係があるのかと思っていたのですが、そうでないことがわかりました。
4.cry wolf うそをついて人々を驚かせる
People will not believe you if you cry wolf too often. (うそをついて人々を驚かせてばかりいると、人々はあなたのことを信じなくなりますよ。)
cry wolf はイソップ物語から来たフレーズです。「オオカミが来た」と叫んで人々をだます少年がいましたよね。「オオカミ少年」の英語タイトルは “The Boy Who Cried Wolf” です。
英語の wolf は「残忍な人、貪欲な人」という意味があります。CNNに Wolf Blitzer というベテランキャスターがいるのですが、初めてその名前を知った時、なぜ人名に Wolf をと私は疑問に思いました。調べたところ、本人はドイツ生まれで、Wolf という名前は母方の祖父と同じとのこと。もしかしたら Wolfgang などの名前を縮めたのかもしれませんね。
wolf は他にも音楽用語で 「ウルフ音」という意味を持ちます。これは調律の不良などから来る低いうなりや不協和音、耳障りな音のことです。
今回は生きものを含む表現をご紹介しました。簡単な単語、私たちがよく知っている言葉も、調べてみるといろいろな意味がありますよね。言葉の世界は実に奥が深いと思います。
柴原 早苗
放送通訳者、立教大学・獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSE にて修士号取得。ロンドンのBBC ワールド勤務を経て現在はCNNj、CBS イブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。NHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC 英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)。
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