ワンランクアップの英語表現
2021.09.01
スキルアップ
第147回 「音楽に関連した英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
私と音楽の本格的な出会いは幼稚園時代に始めたピアノでした。日本ではバイエルやブルグミュラー、ツェルニーなどが定番でしたが、その後、転居したイギリスでは王立学校主催のグレード検定があり、そちらに合わせて実技と理論を勉強することとなりました。当時は英語が全く分からず、クラスメートに学力では大いに差を付けられていたため、ピアノだけは負けるまいと思っていたことを思い出します。

今月は音楽にちなんだ英語フレーズをご紹介しましょう。
1 drumbeat (声高な要求、うるさい提唱)
The demonstrators made their drumbeat for a comprehensive reform. (デモ隊は、包括的な改革を声高に要求しました。)
「声高な要求、うるさい提唱」を英語でdrumbeatと言います。ドラムの音が転じてこの意味になりました。品詞は名詞ですが、上記訳文では動詞として扱っています。通訳現場でも、品詞を名詞から動詞に、あるいは動詞から名詞に変えて訳すことがよくあります。たとえば、"I wish that … "の場合、「私は~を望んでいます」と通常であれば訳されますが、同時通訳では頭の中に保持するのがなかなか大変です。よって、「私の望みは~」と訳すことがあるのですね。
さて、drumの語源はオランダ語のtromという擬音語から来たそうです。drumを使った単語ではdrumstick(太鼓のばち)があります。鶏の脚も「ドラムスティック」。これは形がばちに似ているからだそうです。
2 face the music (報いを受ける、招いた結果を受け止める)
He lied to the company so he has to face the music. (彼は会社に嘘をついたため、その報いを受けなければなりません。)
文字通り訳せば「音楽と向き合う」となりますが、face the musicは「報いを受ける、招いた結果を受け止める」という意味です。口語表現として使われます。語源は諸説あるようですが、19世紀にアメリカで誕生したという説が有力と思われます。いくつかの説があり、「俳優が舞台に上がる前に緊張している状態」「除隊を命じられた兵士に対して奏でられる音楽」などもあるそうです。他にも、戦場で敵を前にした兵士が、「音楽のような銃声を聞いた」という説も存在するとのことです。
3 ring a bell (心当たりがある、ピンとくる)
Her name does not sound familiar to me. It doesn’t ring a bell. (彼女の名前は聞き覚えないなあ。ピンとこないのだけど。)
「ピンとくる」を口語表現でring a bellと言います。ring a bell自体は「ベルを鳴らす」で、他にも「ベルを押す」はpress a bellと言います。辞書でbellを引くと「ベル、鈴、呼び鈴、鐘」などの訳語が出てきます。昔は玄関ドアにはベルが多かったと思いますが、今では「インターホン」ですよね。日本語では「ピンポン」と言うこともありますが、インターホン自体は和製英語で、電子音のあの「ピンポン」は英語でもdoorbellと言っています。
ちなみに「ピンポンダッシュ」は英語でding-dong ditchと言います。動画サイトを見ると、海外のそうしたおふざけ映像も結構ありました!日本だけではないのですね。
4 play it by ear (状況を見て決める)
I don’t know what kind of rebuttal I will get so I will play it by ear. (どのような反駁があるかわからないから、状況を見て決めます。)
「状況を見て決める、その場に合わせてやる」を英語でplay it by earと言います。文字通り訳せば「耳で聞いて演奏する=即興する」ということです。Let’s play it by earは「まあやってみよう」という意味になります。
ところで「耳が聞こえない」(deaf)を使った表現でtone-deafがあります。これは「音痴な」という意味の他に、「~について全く無知である」という状況を示します。先日担当したCNNのニュースで、1月6日の議事堂襲撃事件のことが出てきたのですが、とあるコメンテーターが「共和党の反応のひどさ」を"The Republicans are tone-deaf"と表現していました。「あの議事堂に行った市民は平和的だった」「観光客だった」「警察官とハグしていた」などトランプ氏の発言をそのまま繰り返す共和党議員を指したものでした。
今回は「音楽」に関連したフレーズをご紹介しました。記念日カレンダーのサイトで調べたところ、11月18日は「音楽著作権の日」とあります。これは1939年にJASRAC(日本音楽著作権協会)が設立された日なのだそうです。
柴原 早苗
放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。
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