ワンランクアップの英語表現
2020.10.01
スキルアップ
第136回 「体の一部を使った英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
人間の体というのは不思議ですよね。私たちが眠っているときでも休むことなく動いてくれます。CNNの放送通訳では医学関連の話題がよくお目見えしますが、正直なところ、「肝臓」「細胞」「遺伝子」などと言われても私自身、普段意識することなく生活しているのです。もっと自分の体を労わりたいと改めて感じています。

今月は体の一部を使った英語表現です。
1 have one’s finger on the pulse 最新の情報に通じている
If you want to know the latest market trend, ask Rick. He has his finger on the pulse. (最新の市場トレンドならリックに聞くと良いよ。彼は最新の情報に通じているから。)
「最新の情報に通じている」は英語でhave one’s finger on the pulseと言います。keep one’s finger on the pulseも同じ意味です。文字通り訳すと「脈に指を置く」ですよね。この表現の語源は「脈に指をあてることで自分の心拍がわかる」ことから来ています。
なお、pulseの語源はラテン語のpulsum(鼓動している)で、impulse(衝動)、propeller(プロペラ)も同じ語源です。ちなみに電子辞書の例文検索機能はみなさんお使いですか?これは単語を入力すると、複数の辞書の例文機能が一気に表示されるというものです。試しにimpulsiveを入れたところ、his impulsive decision(彼の軽率な決定)、an impulsive act of generosity(思わずしてしまった気前良い行為)、a rash impulsive marriage(軽率で衝動的な結婚)など、なかなか多岐にわたる例文が出てきておもしろかったです。
2 knee-jerk reaction お決まりの反応
If you want to be sincere, then it’s better not to show a knee-jerk reaction to others’ comments. (もし誠実になりたいならば、他の人のコメントについてお決まりの反応をしない方が良いよ。)
「膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)」を英語でknee-jerkと言います。膝を叩くと足が上がる、あの反応です。knee-jerk自体には医学的な意味のほかに「反射的な、思慮に欠ける、お決まりの」といった軽蔑的な口語表現上の意味もあります。上記の例文は「お決まりの」という語義で用いられていますよね。
一方、jerk自体は「ガクンと動く」という意味です。ビーフジャーキー(beef jerky) のjerkも同じスペルですが、jerky自体は先住民のことばcharquiが変化したものとされています。
3 shoulder to shoulder 協力して
He stood shoulder to shoulder with her throughout her difficult period. (彼女が困難な状況にいる間、彼は彼女に協力していました。)
「協力して」は英語でshoulder to shoulderと言います。shoulderは「肩」ですので、「肩を触れ合って」が原義です。ちなみに「肩を並べて歩く」はwalk shoulder to shoulder with each otherと言います。
なお、「肩がこる」は英語でhave stiff shouldersと言います。一方、「肩をすくめる」はshrug one’s shouldersです。両肩を表す場合は複数形のshouldersを用います。
4 dip one’s toe in the water 新しいことに挑戦する
She is now praising her daughter as she has been dipping her toe in the water. (彼女は娘のことを今は褒めています。なぜなら娘が新しいことに挑戦しているからです。)
dip one’s toe in the waterは「新しいことに挑戦する」という意味です。たとえばお風呂の温度を確認しながら、そっとつま先から入ることがありますよね。あの状況です。なおtoeそのものは「足の指」という意味で、「足の親指」はbig toeです。「小指」はlittle toeと言います。
ところで日本語には冷水、常温水、温水、熱湯などといった語がありますよね。実はこれらの語における法律的な温度の定義はありません。ただ、厚生労働省が定める「日本薬局方」によると、「冷水=10度以下」「常温=15~25度」だそうです。一方、「ぬるま湯」などは人それぞれの感じ方がありますよね。英語はすべてwaterであり、hotやcoldなどの形容詞をwaterの前に付けるだけです。文化の違いを感じます。
以上、今月は体の一部を用いた英語フレーズをご紹介しました。ちなみに私は単語・表現力アップの一環として、何か気になる語(それも基本単語!)を思いつくと、「何かおもしろい語義はないかしら?」と思いながら辞書を引いています。今回このコラムのきっかけとなった語はkneeでした!ぜひみなさんも楽しみながら学んでくださいね。
柴原 早苗
放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。
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