ワンランクアップの英語表現
2023.04.01
スキルアップ
第166回 「headを用いた英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
疲れがたまると片頭痛に見舞われることがあります。留学中、課題が膨大で無理がたたったのか、あの厄介な片頭痛が。「ハテ?英語で片頭痛って何て言うのかしら?」と調べたところ、migraineとわかりました。医学用語というのは日本語の場合、「片頭痛=頭が痛い」と想像できますが、migraineとなるとお手上げ。同時通訳中でいつも焦るのが医学用語なのです。ちなみにmigraineの語源はギリシャ語のhemicrania。hemi(片側)がmiと短縮され、craniaがgraineになったそうです。

「頭痛」の話題が出たところで、今月はheadを使ったフレーズを見ていきましょう。
1 keep one’s head above water 経済的に厳しい中、何とかやっていく
Despite inflation, I have managed to keep my head above water. (インフレにも関わらず、私は経済的に何とかやっています。)
経済状況が厳しい中、何とかやりくりして生きる様子を英語でkeep one’s head above waterと言います。「水面上に頭を保持する」と文字通り訳すと、何となく想像できますよね。このフレーズが初めて誕生したのは1603年ごろだそうです。
ところで「水(water)」が出てきたので、少々雑学を。日本語で「水」と言うと冷水、常温水、熱湯、ぬるま湯などあります。日本では厚生労働省がその温度を厳密に定めており、冷水は10度以下、常温は外気温を超えない温度(15から25度)、温湯は60から70度、熱湯はおよそ100度だそうです。
2 get one’s head around 理解する
This document is so difficult! I can’t get my head around. (この文章、すごく難しい!まったく理解することができない。)
「理解する」を略式表現でget one’s head aroundと言います。上記のように否定文で使われることが多いとされます。私自身、数週間前に確定申告をしましたが、まさにI couldn’t get my head around!でした。
なお、この表現を言い換えるなら、understandやcomprehend。同時通訳をしている際、実はこうした一言の方が日本語には訳しやすいと私は感じます。でも英語にはgiveやgetを用いたフレーズが実に沢山!私の恩師の故・松本道弘先生は昔からgiveやgetを理解する大切さを説いておられました。
3 put one’s head in the sand 現実から逃げる
Well, maybe I need to face it. I can’t put my head in the sand. (まあ確かに向き合わないといけないよね。現実から逃げていてはダメだから。)
「砂の中に頭を入れる」という行為、これはダチョウの習性と言われており、そこからこのフレーズが生まれました。でも、ダチョウは危険が迫るや本当に頭を隠すかと言えば、そうではありません。実はこれ、完全なる都市伝説。ダチョウは地中に卵を埋めるのですが、時々様子を確認するために砂の中に頭を入れることから、この表現が誕生したそうです。
ところでostrich(ダチョウ)には形容詞の用法もあり、「事なかれ主義、傍観的な」という語義もあります。ちなみに子ども時代に私は切手を集めていたのですが、オーストリア(Osterreich)とostrichを混同していたのでした!
4 Don’t let it go to your head 調子に乗ってはいけない
It’s true that my product made a huge hit, but I am saying to myself “Don’t let it go to your head.” (確かに私の商品は大ヒットとなったけれど、自分にはこう言い聞かせているよ、『調子に乗ってはいけない』ってね。)
「天狗になってはいけない、調子に乗るな」を英語でDon’t let it go to your headと言います。ちなみに「彼女はうぬぼれている」はShe has a big headと表します。「大きい頭を持つ」というのが興味深いですよね。
さて、日本語では「調子に乗る、図に乗る」と言いますが、なぜ「図」なのでしょうか?実は仏教用語から来ており、「声明(しょうみょう)」における転調を「図」と言います。転調がうまくいく、つまり、調子が上手に変えられたことを「図に乗る」と言い、そこから「図に乗る」「調子に乗る」という表現が生まれたのだそうです。
いかがでしたか?今月はheadを使った表現を見てみました。ちなみに新卒で入社した航空会社で私は初めてdead head(デッドヘッド)と言う語に遭遇。意味は「CAや操縦士などが業務目的で飛行機に乗客として乗ること」です。
柴原 早苗
放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトで日本語訳・解説を担当。大学や企業での学習アドバイス経験多数。各種サイトでコラムも執筆中。
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