ワンランクアップの英語表現
2024.06.01
スキルアップ
180回「英国朝食の食材を用いた表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
イギリス料理はかつて味が今一つと言われていましたが、林望先生の著書「イギリスはおいしい」(平凡社、1991年)で、人々の見方も変わりました。最近ではModern British cuisineも有名です。一方、「イギリスできちんとした食べ物にありつきたいなら、朝食を食べるべし」という言い伝えもあるほど。English Breakfastはパン、ソーセージ、ベーコン、卵料理などが充実しているからなのですね。

そこで今月はイギリスの朝食メニューに出てくる食材を用いた英語表現を見ていきましょう。
1 ham-handed 不器用な
Rather than taking a ham-handed approach, it’s better to think well beforehand. (不器用な手段を取るよりも、事前によく考えた方が良いですよね。)
「不器用な」を英語でham-handedと言います。上記例文のようにa ham-handed approachとしてよく使われています。類語ではclumsyやineptがあります。
ham-handedが初めてお目見えしたのは20世紀初頭。中英語で「ひざまずいて」を意味する"With hammen ifalden(ハムが折りたたまれている状態)"から来ているそうです。ただ、調べてみると「食べ物のhamとはあまり関係が無い」との説もあります。語源というのは諸説あるのでしょうね。
2 bring home the bacon 生活費を稼ぐ
Since I have now graduated the college, I ought to bring home the bacon. (もう大学を卒業したから、生活費を稼ぐことをしないとね。)
bring home the baconは「生活費を稼ぐ」という意味です。他にも「成功する」という語義があります。直訳すれば「家にベーコンを持ち帰る」ですが、このフレーズが生まれたのは北米で、時代は20世紀初頭。一説によれば、ボクシングの試合にのぞむ息子に対して母親が述べたとされています。選手である息子に対し「(勝ったら)ベーコンを買ってきて」という趣旨の電報を送ったのだそうです。
3 chicken-and-egg debate 因果関係のわからない討論
That’s a complicated issue. It really is a chicken-and-egg debate. (それは複雑な問題だね。まさに因果関係のわからない討論だよ。)
chicken-and-egg debateは文字通り訳せば「ニワトリと卵の討論」となります。今や日本語でも「ニワトリが先か、卵が先か」というフレーズでおなじみですよね。語源は古代ギリシャ時代までさかのぼります。当時の哲学者プルタルコス(Plutarch)が「鶏と卵ではどちらが先か」という議論をしていたのです。
なお、chickenには「弱虫」という意味もあります。映画Back to the Futureで主人公がライバルにchicken呼ばわりされて怒るシーンは有名です。Michael J. Foxの名演技が思い出されます。
4 beanfeast 宴会
Our team worked really hard this month, so the boss organized a beanfeast for us. (私たちのチームは今月とても頑張ったので、上司が宴会を用意してくれました。)
「宴会」を英語でbeanfeastと言います。これは主にイギリスで使われる表現で、職場などで開く宴会を指します。beanは「豆」のことで、イギリスの朝食ではbaked beansという赤くて甘ずっぱい豆が提供されますよね。なかなか日本では売られていないbaked beansですが、イギリスではスーパーにたくさん並んでいます。
ところでfeastは食べ物や飲み物に焦点をあてるお祝いを指しますが、festivalは「お祝いやイベント」そのものに重きを置きます。一方、feteの意味はfestivalに近く、場合によっては宗教行事を指すこともあります。
ちなみに最近は日本語で「夏フェス」「音楽フェス」という表現をよく耳にしますが、英語ではsummer festival やmusic festivalと言った方が通じやすくなります。こうした微妙なニュアンスの違いも、その都度調べると楽しいですよね。
いかがでしたか?今月は「英国朝食」メニューに使われる食材から表現をご紹介しました。ちなみに私はロンドンの大学院で学んでいた際、寮に住んでおり、入寮当初は懐かしき英国朝食に歓喜!しかし1週間で飽きてしまいました。やはり何事もほどほどに、というところなのでしょうね。
柴原 早苗
放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトで日本語訳・解説を担当。大学や企業での学習アドバイス経験多数。各種サイトでコラムも執筆中。
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