ワンランクアップの英語表現
2022.06.01
スキルアップ
第156回 「水にちなんだ単語を使った英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
AIが発達するにつれ、「果たして私の携わる通訳業は残るのかしら?」と思うことがあります。想像以上に技術の進歩が飛躍的だからです。そこで「あまのじゃく気分」で(?)インターネットの無料翻訳ソフトを立ち上げ、難易度高めの日本語表現を入力。たとえば「水臭い」「水に流す」を調べてみたところ、「うーん、まだ現役通訳は続けられるかも」などと安堵(?)してしまう表現も出てきます。ただ、これも時間の問題。技術の進歩はあっという間に追いつくでしょう。ゆえに人間通訳者としてご依頼を末永く頂けるよう、尽力せねばと思います。

今回は、上記で取り上げた「水」をキーワードに英語表現を4つ見てみましょう。
1 pour oil on troubled waters 仲裁する
My children were in terrible argument, so I had to pour oil on troubled waters. (子どもたちがひどい口論をしていたので、仲裁せねばなりませんでした。)
「仲裁する、けんかなどを鎮める」を英語でpour oil on troubled watersと言います。語源は、「荒れている海に油を注ぐことで、油膜が波を鎮める」という状況から来ています。油を海に流してしまうのは環境問題になりかねませんが、何となく状況が思い描けるフレーズですよね。
ところで1970年にSimon & Garfunkelがヒットさせた「明日に架ける橋」。原題は”Bridge over Troubled Water”です。「水」ではなく「橋」が邦題で使われているのも興味深いところです。
2 take to … like a duck to water すぐに慣れる
He took to cooking like a duck to water. (彼は料理にすぐ慣れました。)
「すぐに慣れる、身に着ける」を英語でtake to … like a duck to waterと表します。アヒルがあっさりと水に慣れるように、物事を習得する様子を表しています。ほかにも「すんなりと気が合う」という意味でも使われます。
ところでduckは「アヒル」のことですが、厳密には「雌のカモ」を指します。「雄ガモ」はdrakeと言うのですね。このように英語では雄雌で単語が異なります。cow(雌牛)、bull(雄牛)、mare(雌馬)、stallion(雄馬)などがその一例です。
3 watershed 分岐点
That political incident was a watershed in the country’s history. (あの政治事件は、その国の歴史において分岐点となりました。)
「分岐点、転換点」をwatershedと言います。watershedは「分水嶺」のことですが、ニュースで良く出てくる単語です。” It was a watershed moment” などはCNNでも頻繁に耳にします。
ところで私が愛用する紙版の「ジーニアス英和辞典」を引いたところ、watershedはイギリス英語で「子どもの寝る時間」とありました。具体的には夜9時で、”the 9 o’clock watershed”という表現が紹介されています。
4 watertight すきのない、万全な
Don’t worry about the trip. I have made a watertight plan. (旅のことは心配しないで。万全な計画を立てておいたから。)
「すきのない、万全な」をwatertightと言います。これは「水も漏らさぬ様子」から来ています。ちなみに「防水コンテナ」はwatertight container、「防水構造」はwatertight constructionです。
「watertightがあるなら、airtightは?」と気になった私は辞書を引いたところ、ありました!!やはりこちらも「すきのない、完璧な」という意味です。では、「水と空気があるなら『火』は?」と思うも、残念ながらfiretightなるものは存在せず。でもこのように派生していろいろ調べていると、時間を忘れて没頭できます。それが私にとっての学習の醍醐味です。
いかがでしたか?今回はwaterにちなんだ単語を使ったフレーズをご紹介しました。ちなみに「水」で思い出したのが「水瓶座」。英語ではAquariusで、aqua-は「水」を表すラテン語の接頭辞です。「私は水瓶座です」は英語で“My zodiac sign is Aquarius”と言いますが、シンプルに”I’m an Aquarius”でもOKです。一方、冒頭に出てきた「水に流す」は英語で”clean the slate”、「あなたは水臭い」は”You treat me like a stranger”などと言います。
柴原 早苗
放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトで日本語訳・解説を担当中。大学や企業での学習アドバイス経験多数。コラム執筆のほか「放送通訳者・柴原早苗」(https://note.com/sanaeinterpreter/) 更新中。
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