ワンランクアップの英語表現
2023.09.01
スキルアップ
第171回 「neckを使った英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
放送通訳の仕事現場ではヘッドホンを付け、目の前のテレビ画面を見ながらマイクに向かって同時通訳をしていきます。耳から聞こえる音だけでなく、画面上の情報、つまり話し手の表情やボディランゲージも大きなヒントに。よって、目を大きく見開いて凝視し、一言も聞き漏らすまいという気持ちになります。さらに声を出しての通訳ですので、必然的に頭から背中辺りまで緊張するのですね。私の場合、「通る声を出したい」という思いがとりわけ強いため、首回りもガチガチに。弛緩させないとかなりのコリにつながってしまいます。マッサージ通いは欠かせませんが、チカラを入れ過ぎない発声法も大事ですので、目下、試行錯誤中です。

首が「物理的に」回らなくなっては、「金銭的」にも首が回らなくなりそう(笑)。そこで今月は「首=neck」を用いた英語フレーズを見ていきましょう。
1 albatross around one’s neck 悩みの種
Her business partner was an albatross around her neck, but she was supported by her team. (彼女のビジネスパートナーは悩みの種でしたが、彼女は自分のチームに支えられました。)
「成功を妨げるような悩みの種、重い負担」を英語でalbatross around one’s neckと言います。albatrossは「アホウドリ」のこと。確かに自分の首の周りにアホウドリが巻き付いていたら大変ですよね。なかなか面白い表現です。このフレーズは18世紀末の英詩人コールリッジ作「老水夫行(ろうすいふこう)(The Rime of the Ancient Mariner)」という物語詩から。老水夫がアホウドリを射殺するというシーンが描かれています。
2 neck and neck 接戦
The two athletes were neck and neck in the competition. (二人の陸上選手は大会で接戦でした。)
英語で「接戦」をneck and neckと言います。まさに「負けず劣らず」という状態です。元は競馬から来たフレーズ。確かに競馬レースで馬の頭や首の差での勝負を考えると、接戦という意味が伝わってきますよね。
ところでneckの語源を調べたところ、初出は12世紀で、古英語のhnecca(うなじ)から来ていることがわかりました。一方、「ジーニアス大英和辞典」のneckの解説には「日本語の『首』は英語のheadに相当することも多い」とあります。こうした微妙なニュアンスの差も、辞書を引くたびに覚えておくと良いでしょう。
3 breakneck speed とてつもない速さ
The news changes at breakneck speed. (ニュースはとてつもない速さで変化します。)
breakneck speedは「とてつもない速さ、危険なほどの速さ」という意味です。確かに首が折れるような状況を想像すると、あまりにも危ない!「さては自動車が普及したころに生まれた表現では?」と調べたところ、すでに16世紀には誕生していることが判明。その時代はすでに馬が乗り物になっていましたので、納得です。なお、breakneckのアクセントは冒頭のbreakが強く読まれます。
4 stiff-necked 頑固な
Our CEO has a leadership and is generally a nice person, but sometimes, he becomes stiff-necked. (うちのCEOはリーダーシップがあって基本的には良い人だけど、時々頑固になるのよねえ。)
「頑固な」を英語でstiff-neckedと言います。stiffは「かたい」という意味ですので、「首がかたい」から「頑固」というニュアンスになっています。物理的な首のかたさだけでなく、思想や言動が頑固、というのが興味深いですよね。
ところで「かたい」を表すstiffは「容易に曲がらない様子」を、solidは「固形のかたさ」を表します。他にもfirmやhardなどありますので、興味のある方は辞書を引いてみてくださいね。
今月はneckを用いた英語フレーズをご紹介しました。ところで夏に大活躍の「首に巻く保冷剤」は「ネッククーラー」「ネックバンド」「クールマフラー」「アイスネックリング」など色々な名称で売られています。英語ではcooling neck wrap, neck cooling tubeなどと言うそうです。
皆様も残暑厳しい折、健やかにお過ごしくださいね。
柴原 早苗
放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトで日本語訳・解説を担当。大学や企業での学習アドバイス経験多数。各種サイトでコラムも執筆中。
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