ワンランクアップの英語表現
2022.08.02
スキルアップ
第158回 「鉱物を用いた英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
放送通訳の仕事を始めて20年以上たちますが、完璧に訳せたと思える日は皆無です。CNNの場合は完全生同通(かんぜんなまどうつう:事前資料が全くない状態の同時通訳)で、しかもブース内は自分だけ。意味調べの時間もないため、毎回「ざっくりとした訳」で切り抜けるという力業です。だからこそ、知らない語やフレーズを集めてストックするのが私は好きなのですね。そこで威力を発揮するのが電子辞書。まさに私にとって「鉄板アイテム」です。そこで今回は「鉄」から派生して、鉱物を用いた英語表現のご紹介です。

1ironclad 強固な
We offer ironclad guarantee for customer satisfaction. (私共はお客様の満足のため、強固な保証をご提供いたします。)
ironcladは「強固な、破ることのできない」という意味で、協定や約束事に用いられます。ironclad自体は形容詞で、「鉄板をきせた、装甲した」という意味。とりわけ19世紀の軍艦における装甲を指します。
ところでironと言えば日本語では「アイロン」(洋服の皺伸ばし用)と「アイアン」(ゴルフ用語)がありますよね。ただ、英語の発音そのものは「アイアン」に近いものです。よって「アイロンがけ」も「アイアニング」と発音します。
2 put the pedal to the metal 全力で取り組む
If we want to finish the project, we have to put the pedal to the metal. (プロジェクトを終わらせたいなら、全力で取り組む必要があります。)
「全力で取り組む、頑張る、きびきびと取り組む」をput the pedal to the metalと言います。主にアメリカで使われるインフォーマルな表現です。文字通り訳せば「ペダルを金属の上に載せる」ですよね。アメリカは車社会で、「車を全速力で運転する」という意味をこのフレーズは有しています。そこから派生して「全力で取り組む」となりました。
ところで音楽のジャンルにheavy metalがあります。これはもともと「重金属」という意味のほかにも「巨砲」「大きな影響力」「強敵」という語義が存在します。既知の単語も調べ直してみると面白いですよね。
3 gold 金のように高貴なもの、温和、親切
She has a heart of gold. Everybody likes her. (彼女は親切な心の持ち主。みんな彼女のことが好きです。)
goldは「金」という意味のほかに「金貨、金メダル、富」「親切、温和、高貴なもの」という語義もあります。a heart of goldの他にもa voice of gold(甘美な声)、as good as gold(子どもの行儀が良い)、be worth its weight in gold(非常に有用である)なども辞書には出ています。ちなみに「金」の元素記号はAuですが、これはラテン語のaurum(金)から来たもの。「銀」のAgはargentum、「銅」のCuはcuprumに由来しています。
ところでgoldと言えば1983年に大ヒットしたSpandau Ballet (スパンダー・バレエ)の”Gold”を私は思い出します。名曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=ntG50eXbBtc
4 silver 説得力のある
He was a silver-tongued politician. Many people admired him. (彼は説得力のある政治家でした。多くの人々が尊敬していました。)
silverは「銀」のほかに形容詞で「説得力のある、雄弁な」という語義もあります。silver-tonguedは「雄弁な、説得力のある」という意味になります。silverは名詞や形容詞だけでなく、動詞としても使える単語で、たとえばAge has silvered his hair.なら「年で彼は白髪になった」です。
一方、アメリカのくだけた表現にsilver bulletがあります。これは「問題解決のための特効薬」。狼男を銀の弾丸で殺せるという言い伝えから生まれた表現だそうです。
いかがでしたか?今月は「鉱物」をキーワードに4つの表現を見てみました。どれも基本的な英単語ですが、改めて辞書で調べてみると多くの意味があることに気づかされます。辞書というのは「知っていることの再確認」にとどまらず、「未知を知るための最強手段」なのですよね。私は電子辞書を日ごろから持ち歩くようにしており、時間ができるとあえて基礎単語を読み直しています。その都度発見があり、嬉しくなります。
柴原 早苗
放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトで日本語訳・解説を担当中。大学や企業での学習アドバイス経験多数。コラム執筆のほか「放送通訳者・柴原早苗」(https://note.com/sanaeinterpreter/) 更新中。
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