ワンランクアップの英語表現
2018.11.01
スキルアップ
第113回 顔のパーツを使った英語表現
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
放送通訳現場ではブースに一人で入るため、パートナー通訳者からのサポートはありません。聞き取れなくてもその単語を知らなくても、何とか声を出し続けるのが仕事です。なぜなら10秒以上の沈黙は放送事故とみなされるからです。毎回、未知の表現が出てきても何とか文脈から想像しながら訳すことを私自身、心がけています。そして、聞き取れなかった単語は後で動画で確認し、メモするようにしています。

今回ご紹介するのは、主に放送通訳現場で出会った表現。いずれも体のパーツが出てきます。
1 tongue-in-cheek (ふざけた)
Be serious when you do the interview. Don’t make any tongue-in-cheek comment. (インタビューをやる時は真面目に。ふざけたコメントしてはいけないよ。)
英語で「ふざけた」はtongue-in-cheekと言います。複数の辞書を引くと、初出は1933年とありますので、比較的新しい表現です。一説によれば、語源は「笑いを押し殺すために舌をかんだ」という表情から生まれたとされています。
なお、tongueは「舌、べろ」で、牛肉などの「タン」でもおなじみですよね。体の機能以外にも、「話す能力、言語」という意味もあります。また、編み上げ靴の「べろ」、「ブローチの針」もtongueです。なお、mother tongueは近年、「母国語」ではなく、「母語」と訳されています。これは国を持たないものの母語が存在するという、人道的な配慮からです。
2 seal one’s lips (秘密を守る)
Since it’s a new information, shall I seal my lips? (新しい情報なので、秘密を守りましょうか?)
seal one’s lipsは「秘密を守る」ということです。まさに「唇」をのり付けるという言葉がその状況を物語っていますよね。ここでは上唇・下唇があるので、lipsと複数形になっています。ちなみに「誰にも言わないよ」はMy lips are sealedです。
ところで英語で「口パク」をlip syncと言います。これはlip synchronizationの略です。日本語の「口パク」は「口だけパクパク動かすこと」を表わしています。
3 fight tooth and nail (必死になる)
Since she is going to take an exam, she is fighting tooth and nail. (試験を受けるため、彼女は必死になっています。)
fight tooth and nailは「必死になる、あらゆる手を尽くす」という意味です。nailの代わりにclawを使うこともあります。語源は動物界の習性から来ています。動物同士、闘う時というのは 文字通り歯や爪を使いますよね。歴史的に見ても、かなり昔からあるフレーズだそうです。
ところで学習者向け英和辞典には図も豊富に掲載されています。私が愛用する「ジーニアス英和辞典(第5版)」でtoothを引くと、口の中の歯の図が出ています。日本語の「奥歯」はmolar、「親知らず」はwisdom tooth、「前歯」はincisorです。
歯に関連してもう一つ。「歯ブラシ」は英語でtoothbrushです。複数形のteethbrushにはなりません。これはtoothを形容詞のように使い、単数形にするというルールがあるためです。同様にcarparkやarmchairなどもあります。cars parkやarms chairとならないのはこのためです。
4 raise eyebrows (驚かせる)
The announcement raised eyebrows. People talked about it for some time. (その発表は人々を驚かせました。人々はその後もしばらくそれについて話していました。)
eyebrowは「眉」のことです。raise eyebrowsは文字通り「眉を上げる」という意味もあります。なお、browは「ブラウ」という発音です。brow自体は「眉毛、額、表情」などいくつか語義を有します。
ちなみにeyebrowsを使った表現は他にもあります。up to the eyebrows(仕事が多忙である)、knit one’s eyebrows(しかめ面をする)などです。
いかがでしたか?顔のパーツも色々とあり、その特徴を使った英語表現があることに気づかされます。日本語でも「眉をひそめる」「鼻で笑う」などがありますよね。ぜひ皆さんも、気になる体のパーツを元に辞書を引いてみてください。
柴原 早苗
放送通訳者。獨協大学・順天堂大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。
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