ワンランクアップの英語表現
2025.08.01
スキルアップ
第194回「ハイフンでつないだ英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
放送通訳現場で私は新しい単語やフレーズに遭遇するとすぐにノートにメモしています。手元の電子辞書で語義を調べ、そちらも即座に記入。ちなみに以前の私はこうして集めた単語を「覚えねば」と思っていました。でも、人間の脳のキャパには限界があるもの。無理に記憶しようとするとかえってつらくなるのですよね。よって最近はメモをしたらそこでおしまい。感覚としてはスタンプラリーです。集めることに意義がある、と気楽におこなっています。学びで一番大事なのは楽しむことです。

今月はこのようにして巡り合ったフレーズを中心にご紹介していきます。いずれもハイフンでつないだ英語表現です。
1 ping-pong 往復
The president’s bill went to the Senate but was returned to the House. It is indeed legislative ping-pong. (大統領の法案は上院に送られるも、下院に戻されました。まさに立法上の往復です。)
「(立法上の)往復」を英語でping-pongと言います。イギリス英語の場合、parliamentary ping-pongとも言います。ping-pongは日本語の「ピンポン」でもおなじみ、卓球のこと。上記例文では、法案が行ったり来たりしている様子を表しています。
ところで卓球自体は英語でtable tennisと言いますが、オノマトペからping-pongも使います。ただ、ピンポンという表現自体はレジャーとしての卓球を指しますので、公式試合であればtable tennisを使います。日本語もそうですよね。
2 ding-dong battle 激しい戦い
The match between the two teams was an exciting ding-dong battle. (両チームの試合は、ハラハラする激しい戦いでした。)
ding-dong battleは「激しい戦い」という意味です。ding-dongは「ガランガラン、ジャンジャン」など鐘の音を指します。チャイムも同様です。クリスマス・キャロルで有名な”Ding Dong Merrily on High”は日本でもおなじみのメロディ。邦題は「ディンドン鐘が鳴る」です。ding-dongも同じく擬音語から生まれた表現です。
ちなみに子どもがよそのお宅のインターホンを押してダッシュで逃げる「ピンポン・ダッシュ」。押された方は迷惑ですが、子どもにとってはどこかエキサイティングなのかもしれません。この遊び、英語ではding dong ditchと言うそうです。ditchは「捨てる」という意味。まさに、勝手に押してその場を離れるという光景が目に浮かびます。
3 knick-knacks こまごました物
Let’s clear the shelves and get rid of the knick-knacks. (棚を片付けて、こまごました物を処分しよう。)
knick-knacksは「こまごました物」という意味です。辞書の見出し語はknick-knackですが、通常は複数形のsを付けて使います。調べたところ、語源はknack(おもちゃ)から来ているようです。
ところでknackと聞いて私が即座に思い出すのが、1970年代にヒット曲を生み出したアメリカのバンド「ザ・ナック」(The Knack)です。日本でも人気で、1979年には「マイ・シャローナ」が大ヒット。来日公演も多数おこなっています。
4 wiggle-waggle 優柔不断な
He has gone wiggle-waggle and became indecisive. (彼は優柔不断になり、決定できなくなってしまった。)
「優柔不断な」を英語でwiggle-waggleと言います。元は「くねくねと動くもの」という意味で、たとえば遊園地の乗り物などを指しています。動物がしっぽを振る様子をwagという動詞で表しますよね。
ところで「優柔不断」の語源は中国古典の歴史書「漢書」から来ています。「優」は「優しい」という意味ですが、「優柔不断」では「ぐずぐずしている」というニュアンスです。先日読んだリーダーシップに関する本に、「リーダーたる者、優柔不断ではいけない」という趣旨が書かれていました。嫌われることも覚悟で決断せよ、というわけです。
いかがでしたか?今月はハイフンで結んだ英語フレーズを4つご紹介しました。英語のオノマトペは音の響き自体が魅力的。一方、私は日本語の音にも興味があり、本稿を執筆しながら、「かくかく しかじか」という言葉を思い出しました。某自動車会社のCMではこれがキャッチフレーズになっており、「鹿」が出てきますよね。
柴原 早苗
放送通訳者、獨協大学および通訳スクール講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2024年米大統領選では大統領討論会、トランプ氏勝利宣言、ハリス氏敗北宣言、トランプ大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラム執筆にも従事。
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