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Hocus Corpus コトバとの出会いで綴る通訳者の世界

2022.04.01

通訳

第15回:“circle back”

第15回:“circle back”

日本でも年の瀬になると「流行語大賞」なるものが話題になります。その時々の出来事や世相を反映した言葉が選ばれます。因みに昨年のトップ10はというと・・・・・  

◆うっせぇわ
◆親ガチャ
◆ゴン攻め/ビッタビタ
◆ジエンダー平等
◆人流
◆スギムライジング
◆Z世代
◆ぼったくり男爵
◆黙食
◆リアル二刀流/ショータイム

本ブログで取り上げた「ぼったくり男爵」と「親ガチャ」がめでたく選出されています。その他にも「人流」や「黙食」など実際の通訳業務でよく出くわしたり通訳する際に頭を捻った言葉も並んでいます。

日本だけではなく世界でも様々な “Word of the Year”的なものが発表されていますが、今月の本題はミネソタ州のレイク・スペリオル州立大学 (Lake Superior State University) が1976年から毎年発表している "Banished Words List" です。「世界追放語大賞」とでも言うべきでしょうか。日本の流行語大賞とはひと味もふた味も違います。流行語のように頻繁に使われているけれども「使用過多」(overuse)だったり「誤使用」(misuse)だったりという理由でもう使わないで欲しいという言葉を広範に募り、厳正に審査のうえ選定・発表されています。
https://www.lssu.edu/traditions/banishedwords/  

2022年に選ばれた言葉は以下の通りです。実際に自分で使ったことのある言葉も多く、「えっ!これダメなの?!」と心配になってしまいます。  

<ここからは新型コロナ関連の言葉です>

追放の理由は「使いすぎ。飽き飽きしたよ」というものからその言葉の示唆する社会的風潮に対する疑義まで様々で、 "New normal" のように以前(2012年)にも追放された経緯のある筋金入りのものもあります。詳細は大学のウェブページに詳しく解説されておりますので興味のある方はご一読下さい。日頃何気なく使っているコトバの語感をこれまでとは違った角度から学ぶことができます。  

さて、本稿ではこの中から "Circle back" を取り上げてみたいと思います。ご存知の方も多いと思いますが、これは日本語で言えば「その点につきましては後日あらためてご回答致します」という、会議では最頻出とも言える文言です。英語では ”I get back to you later”という表現も多いと思いますが、何年か前に「ちょっとカッコいいビジネス英語表現」というようなコラムで「たまには “I circle back to you”とも言ってみよう!」といった感じで紹介されていたことを覚えています。これが追法語の憂き目にあってしまったわけですが、サイトの選定理由を引用してみましょう。  

Treats colloquy like an ice-skating rink, as if we must circle back to our previous location to return to a prior subject. Let’s circle back about why to banish this jargon. It’s a conversation, not the Winter Olympics. Opined a grammarian, “The most overused phrase in business, government, or other organization since ‘synergy’”—which we banished in 2002 as evasive blanket terminology and smarty-pants puffery.
<Lake Superior State University>  

2002年に追放された "synergy" についても触れられているのが興味深いです。「取り敢えず "synergy" と言っておけば何とかなりそうな都合の良いコトバ」と同じ感覚ということでしょうか。
さらに、間違いなくこの受賞にひと役買っていると思われるのがアメリカはバイデン政権のジェン・サキ報道官 (Press Secretary Jen Psaki)でしょう。記者会見で質問を受けたり追求されたりした際に "I circle back" を連発し揶揄されているからです。
https://www.youtube.com/watch?v=T71Y-Ky9cOo  

通訳者としては、『また、持ち帰ってあとで回答する?いつも即答してくれないじゃない。いい加減にしてよ』というようなちょっと嫌味なことを言う場面で使ってみたいところでしょうか。  

もう一つ、リモート通訳の現場でしばしば出くわすおなじみのフレーズ "You’re on mute" もあげておきましょう。「またか。もう2年以上も経つのにいい加減ミュートボタンの場所くらい覚えろよ」ということのようです。  

前述したとおりこのリストは1976年から毎年発表されています。それぞれの言葉の選定理由が示唆に富んでおり、その言葉が多用されていた社会的環境や世相を踏まえた文脈の中での語感を学ぶことができる貴重なサイトです。  

今月は以上です。
それではまた次回までごきげんよう。

和田泰治


英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

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