ISSライブラリー ~講師が贈る今月の一冊~
2020.11.05
スキルアップ
第53回:顧蘭亭先生(中国語通訳)
先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー。
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月は、中国語通訳者養成コース講師、顧蘭亭先生がご紹介する「本日は、お日柄もよく」(原田マハ著, 徳間書店, 2013年)、「美人の日本語」(山下景子著, 幻冬舎, 2008年)です。
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日本には季節に合わせた行事や祭りがたくさんあります。情緒あふれる各地の行事を通して、季節の変化を感じさせるとともに、日本の歴史や伝統文化の再認識にも繋がります。日本ならではの魅力でもあると実感しています。
しかし、今年はコロナ禍で新しい生活様式が求められ、ほぼすべての行事や祭りが中止となり、オンライン化が進んでいます。三密を避けるため、人々の在宅時間が大幅に増えました。通勤時間の節約で、語学の勉強やおうちヨガなど新たな趣味を始めたという報道が相次いでいる中、「読書量が増えた」というアンケート結果も報じられました。日本には、読書の秋という言い方もあり、読書週間(10月27日~11月9日)も設定されています。ちょうど今頃に当たりますが、皆さんはどんな本をお読みになるのでしょうか。
今回私は、まず原田マハ著『本日は、お日柄もよく』を選ばせていただきました。
本のタイトルだけで、結婚式にまつわる話だろうと推測しますね。確かに本の書き出しは、主人公の女性が憧れていた幼なじみの結婚式に参加する場面から始まり、そして締めくくりも幸せな結婚式という、計算された素晴らしい長編小説です。ただ、結婚式は単なる一つのきっかけで、そこで行われた対照的なスピーチによって、主人公の人生をも変えてしまうほど、言葉の持つ魅力に焦点を当てている作品です。
主人公のこと葉は、製菓会社に勤務する27歳の「お気楽」OLです。片思いをしている幼なじみの結婚式でとんだ失敗をしてしまいましたが、久遠久美という謎めいた女性に出会い、彼女が行った素晴らしいスピーチに衝撃を受けます。その久遠久美は、伝説のスピーチライターで、野党党首の代表質問などにも係わる、言葉のスペシャリストなのです。時を同じくして、こと葉が会社の同期で、友人でもある千華に結婚式のスピーチを頼まれます、人前で話すのが苦手なこと葉は、久遠久美に弟子入りし、原稿作りからスピーチのノウハウを叩き込まれることになります。その甲斐があって、超一流ホテルで行われた千華の結婚式で、各界の著名人らを前に、こと葉は見事なスピーチを披露することになります。その後、彼女は総務部から広報部に抜擢され、社長のスピーチ担当に。また、自分のやりたいことを自覚したこと葉は、久美のようなスピーチライターを目指して会社を離れる決心をします。はたしてこと葉はどのように成長し、本当の幸せを見つけることができるのか、皆さんもぜひ読んでみてください。こと葉の心の変化などについての軽妙な描写も楽しみの1つです。
この小説は言葉のスペシャリストに焦点を当て、言葉の持つ可能性を最大限に追求する彼女らの姿が、本当にかっこいい!業種は違いますが、通訳・翻訳者もまた、言葉のスペシャリストと言えます。通訳者は通訳の内容を自分で作成しませんが、分かりやすい内容、伝わりやすい口語表現を常に心掛けることが大切です。私にとっても、参考になる内容も多くあります。
ぜひご一読をお薦めします。
そしてもう1冊は少し古くなりましたが、山下景子著『美人の日本語』です。この本は、受講生にプレゼントされたもので、日本語の勉強には貴重な一冊です。
本の中には、季節に合わせた表現を1日1つで、一年分を書き綴っています。奥ゆかしい古い言葉の読み方はもちろん、由来や意味も分かりやすく書かれています。例えば、「塩梅・あんばい」について、〔昔の調味料は塩と梅酢でした。ですから、塩梅とは、もともと味加減をさす言葉です。…〕とあります。また「桃源郷」や「挨拶」、「目白押し」など、普段よく耳にする言葉を多数載せています。1つ1つが短く書かれているので、読むだけでも楽しい。私は時々、クラスの音読教材として使うこともあります。知識と語彙を増やす、お薦めの1冊です。
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顧 蘭亭(こ らんてい)
中国北京第二外国語大学日本語科卒業、お茶の水女子大学大学院修士課程修了。アイ・エス・エス・インスティテュートで通訳訓練を受ける。冬期アジア大会、「JETプログラム日本語講座・通訳/翻訳コース」(アルク)、「新日本語でくらそう」(NHK出版)、都市PRをはじめ通訳、翻訳歴多数。
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