ワンランクアップの英語表現
2026.02.03
スキルアップ
第200回「mountainを用いた英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
冬と言えば寒さと日照時間の少なさですが、私が冬の最中に楽しんでいるのが「車窓から見える山々の稜線」。冬は空気が澄んでいるため、夏であればぼんやりとしか見えない山がくっきりと目に入ってくるのです。雪を抱いた富士山は荘厳そのもの。この景色を見るため「だけ」にあえて、電車内ではあえて山側に立つほどです。

今月は山(mountain)を使った英語フレーズをご紹介しましょう。
1 a mountain of … (たくさんの~、山のような~)
Since Japan is prone to earthquakes, it’s better to have a mountain of emergency supplies. (日本は地震多発国なので、たくさんの防災用品を揃えた方が良いでしょう。)
「たくさんの~、山のような~」を英語でa mountain of …と言います。日本語とほぼ同じなので覚えやすいですよね。「たくさんの~」は他にも英語でa massive amount of … やheaps of …などがあります。珍しい単語ではa plethora of …もあり、plethoraは古代ギリシャ語plethore(満腹)から来ています。plentyと同じ語源です。
ところで「山」は英語でmountainですが、固有名詞の場合、Mount (略してMt.) Fujiなどと表記します。フランス語の「山」はmontagne またはmontで、Mont Blan(モンブラン)が有名。ドイツ語はBerg(ドイツ語は名詞の頭文字が必ず大文字)で、Heidelberg(ハイデルベルク)はHeide(茂み)とBerg(山)が組み合わさった名前です。
2 move mountains (どんな努力も惜しまない、全力を尽くす)
She would move mountains to pass the entrance examination. (彼女は入試に合格するためなら、どんな努力も惜しまないでしょう。)
「目的のために全力を尽くす、どんな努力も惜しまない」を英語でmove mountainsと言います。日本語でも「山をも動かす」という同義表現がありますよね。この語源は新約聖書「マタイによる福音書」17章20節から来ています。一方、中国の「列子(れっし)」にも「愚公移山(ぐこういざん)」という故事があります。老人・愚公が家の前にあった山を邪魔だと感じたため、少しずつ家族で動かそうとしました。その勤勉な姿に神様が感銘を受け、山を移動させたというエピソードです。なお、列子は英語でLiezi、孔子はConfucius、孟子はMencius、老子はLaoziです。ちなみに孫子(Sun Tzu)の「孫子兵法(そんしへいほう)(The Art of War)」は戦略思考にもつながることから、欧米のビジネスパーソンの間で人気です。
3 make a mountain out of a molehill (些細なことなのに大げさに考える、大騒ぎする)
A tomato sauce stain on your jacket? Well, don’t make a mountain out of a molehill. (ジャケットにトマトソースのしみが付いたの?まあそんなに大騒ぎしないで良いよ。)
make a mountain out of a molehillは「小さなことを大げさに考える」「針小棒大に言う」という意味。文字通り訳せば「モグラの塚から山を作る」です。モグラが地面に穴を掘ると、小さな土の塊が地表に盛り上がりますよね。その塊を指して「大きな山ができた」と言わんばかりに大騒ぎする様子からこの表現が生まれました。ところでmole(モグラ)の語源は中期オランダ語のmol。モグラは哺乳動物です。英語のmoleは「モグラ」の他に「スパイ、秘密情報提供者」という意味もあります。
4 If the mountain won’t come to Muhammad, then Muhammad must go to the mountain (待っていてもだめなら自分から動け)
Since they are refusing to pay the bill, I might as well go to them directly – if the mountain won’t come to Muhammad, Muhammad must go to the mountain. (彼らが請求書の支払いを拒否している以上、私が直接行くしかなさそうね - 待っていてもだめなら自分から動けってことだから。)
「待っていてもだめなら自分から動け」を英語でIf the mountain won’t come to Muhammad, then Muhammad must go to the mountainと言います。文字通り訳せば「(預言者)ムハンマドの所に山が来ないのなら、ムハンマドが山へ行かねばならない」です。この英文を初めて使ったのはイギリスの17世紀哲学者Francis Baconで、イスラム教の預言者ムハンマドの逸話として紹介していますが、現在ではベーコンの「創作」とされているようです。なお、日本語ではイスラム教の預言者を指す場合は「ムハンマド」と表記しますが、トルコ語圏の名前であれば「ムハンメド」、個人名であれば「モハメド」(例:モハメド・アリ)など複数の書き方がありますよね。
いかがでしたか?今月はmountainを用いた英語表現を取り上げてみました。ちなみに通訳者である私にとって現場でのミネラルウォーターは必携。ペットボトルに書かれた産地を読むと、色々な名前に遭遇します。南アルプス、阿蘇、富士山、谷川連峰などいずれも山ですよね。
柴原 早苗
放送通訳者、獨協大学および通訳スクール講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2024年米大統領選では大統領討論会、トランプ氏勝利宣言、ハリス氏敗北宣言、トランプ大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラム執筆にも従事。
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