村瀬隆宗のプロの視点『LEARN & PERFORM! 翻訳道(みち)へようこそ』
2026.02.02
翻訳
第50回 only/just:戦争が終わって、たかだか数十年
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳者養成コース講師 村瀬隆宗
歴史の教訓
翻訳クラスの授業後は、大河ドラマの再放送を見ながらランチするのがお決まりになっています。2026年は『豊臣兄弟!』。序盤の舞台は私の出身地である愛知県、そしてのちのち小牧・長久手の戦い(秀吉と家康が直接対決した唯一の合戦)で故郷の長久手がフィーチャーされそう、ということで、いつも以上に楽しみにしています。
その上、中学の時クラスメートが「面白いから」と貸してくれた『豊臣秀長-ある補佐役の生涯』(堺屋太一著、PHP文庫)は、初めて読んだ歴史小説でした。その後、司馬遼太郎や塩野七生など、さまざまな日本史・世界史ものに触れ、歴史小説は自分にとっての一大読書ジャンルになりました。
学校で学び、小説で楽しんだ「歴史」から得た最大の教訓。それは「人間は性懲りもなく戦争を繰り返す」ということ。それを忘れないために人は歴史を学ぶ、と言っても過言ではないかもしれません。
戦争は、少なくとも日本にとっては過去の出来事だと、50代の私もうっすら思っていました。でもよくよく考えてみると、自分が生まれたのは戦争が終わって、たかだか30年弱。30年というと、大学を卒業してから今までの時間ほど。振り返れば一瞬でした。
生まれた時点で、戦争はほんの少し前の出来事だったんだなと。その30年に、自分が生きてきた50年を加えた程度の時間、幸いにも平和を享受できているからといって、「この国が二度と戦争に巻き込まれることはない」とは、歴史に照らしてみるととても断定できません。
もちろん、恒久的に平和を維持できたなら、それに越したことはありません。しかし、過去の桎梏(しっこく)から逃れ、人間の持つ相克(そうこく)の性を封じ込めてその理想を実現するには、まずはHistory repeats itself(歴史は繰り返す)という原則のもと、「どんな国も油断すればいつでも戦争に巻き込まれる」という認識を持つことが肝要ではないでしょうか。
歴史小説にはそれ以外にも学ぶところがあります。翻訳者としては、語彙もそのひとつです。たとえば「相克」(相手に勝とうと争い合うこと)は、歴史ものでは頻出ワード。私は、自分で使ったことがない言葉は、英語だけでなく日本語のものもExcelシートにまとめた上で、語彙暗記アプリにインポートして馴染むようにしています。 馴染んで、隙あらば翻訳などで使うことによって、初めて自分のボキャブラリーになる。この考えのもと、日本語の表現力を高める方法のひとつとして、上記のような工夫をしています。相克や「桎梏」(束縛するもの)もアプリに登録済みですが、これまで翻訳で使う機会に恵まれなかったため、今回(無理やり?)使ってみました。
only かjustか
さて、「戦争が終わって、たかだか30年」を英語にしてみましょう。
It was only/just three decades after the war had ended.
「たったの」の意味でよく使われるonlyとjustですが、どう違うのでしょうか。それを理解しようとする際、「意味の違い」を求めるべきではありません。「意味は同じ、でもフォーカス(どこに重点があるのか)が違う」と考えると、こうした類語の違いを理解しやすくなります。
onlyは「制限」にフォーカスがあり、事実ベースで客観的です。
I have only two days in Tokyo.(東京滞在は2日のみ → 3日は無理で2日に限られる)
It’s only a scratch.(引っかき傷にすぎません → 診察など、客観的意見)
I’m only checking.(チェックしているだけ → 責めたりしているわけじゃない)
justは「少なさ/小ささ」にフォーカスがあり、感情ベースで主観的です。
I have just two days in Tokyo. (東京には2日しかいられない → たった2日、もっといたいのに!)
It’s just a scratch.(ただの引っかき傷だよ → 大したことない、心配しないで)
口語感が強めで、和らげる効果を持つこともあります。
I’m just checking.(ちょっとチェックしているだけ → 大したことじゃないよ)
「たかだか30年」はどちらも使えますが、上の文脈であれば、私は感情を込めてjustを使うでしょう。
only やjustを置く位置は、制限するもの、あるいは少なさ/小ささを強調するものの直前です。
I have just two days in Tokyo.
She works only on Sundays.(日曜日だけ働いている)
一般動詞の前に置くこともできますが、文の意味が変わりかねないので注意が必要です。
I just have two days in Tokyo.(上と同じ意味)
She only works on Sundays.(日曜は働いてばかりいる、の意味にも)
onlyは強調やフォーマル化のため、制限するものの直後に置くこともできます。
This rule applies to members only.(メンバーにのみ、適用される)

慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。
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