1. ホーム
  2. コラム
  3. 新着コラム
  4. 第59回 Vulnerability:単なる「弱さ」ではない

村瀬隆宗のプロの視点『LEARN & PERFORM! 翻訳道(みち)へようこそ』

2026.11.02

翻訳

第59回 Vulnerability:単なる「弱さ」ではない

第59回 Vulnerability:単なる「弱さ」ではない

アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳者養成コース講師 村瀬隆宗

PHP騒動でよく使われた単語

PHPの重大な脆弱(ぜいじゃく)性が話題となり、多くの自治体や企業がWebサービスを一時的に停止しました。システム関連で使われるこの「脆弱性」という言葉はvulnerabilityの訳語です。「脆弱」を辞書で調べると「もろくて弱いこと」とありますが、vulnerabilityは正確にはそういう意味ではありません。

語源をさかのぼると行き着くのはラテン語のvulnusで、これはwound(傷)を意味します。ですから、vulnus + ableのvulnerableは「傷を負うことができる」という意味です。つまり、exposed to possible harm(危害となり得るものにさらされている)ということです。必ずしもweakというわけではなく、「傷口がある」というイメージでしょうか。

その傷口に、つけ入ろうとするのがexploit。傷口をふさぐのがpatchです。いずれも、IT関連でよく使われる単語です。ニュースでも「緊急パッチ」という言葉が飛び交いましたね。パッチは修正プログラムのことです。

強いこととvulnerableであることは、決して矛盾しません。人でいえば、強い人もvulnerableになり得ます。
A strong person may still be vulnerable when they fall in love.
(強い人も、恋にはもろいことも)

脆弱性を排除するのではなく…

もっといえば、vulnerabilityは必ずしもネガティブなニュアンスを含むとは限りません。ポジティブな文脈で使われることもあります。特に、show vulnerabilityの形を取るときです。「自分の弱さを見せる」ことができる人は、虚勢など張る必要のない、本当に強い人といえるでしょう。

そして、show vulnerabilityすることによって、人と深く繋がれます。弱さを見せる(ワンコでいえばお腹を見せる)のは、相手に対する信頼の表れであり、同時に人間らしさや親しみやすさを感じさせます。

単なる弱さではない、ということ以外で誤解されやすいのは、resilience(回復力)との関係です。「しなやかな強さ」というイメージからvulnerabilityとは対義語のように思われがちですが、こちらも両立し得ます。危害をこうむりやすいのと、その後の回復・復旧のパワーは別の話ということです。
That town is vulnerable to typhoons but highly resilient.
(その町は台風の被害を受けやすいが、復旧力が非常に高い)

PHPという、多くのWebサービスのunder the hood(車のボンネットの下=見えない内部)にあるプログラムに脆弱性が潜んでいたことが判明すると、システムをオフラインにするよう勧告がなされました。たしかに、ネットワークが繋がるほど、オープンになっていくほど、secure(安全)ではなくなり、vulnerabilityは深刻になります。短期的には即効性のある対策といえるでしょう。

The more connected and open we are, the more vulnerable we may become.
ですが、PCをずっとオフラインにしておくことなど、もはや不可能です。必要なのは、vulnerabilityをなくすことではなく、resilienceを高めることではないでしょうか。
The goal is not to eliminate vulnerability, but to strengthen our resilience!

バナー1
村瀬隆宗


慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。

この記事をシェアしませんか?

背景画像
背景画像

CONTACT

通訳、会議・イベント運営、
翻訳、人材派遣/紹介、
法人向け通訳・翻訳研修などに関するご相談は、
こちらからお気軽にお問い合わせください。
お見積りも無料で承ります。