ワンランクアップの英語表現
2021.02.02
スキルアップ
第140回 「韻を踏む英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
小学校時代に私はイギリスで暮らしていたのですが、そのとき、通っていた学校で「英語の詩を作る」という宿題が出されました。そして、課題の条件の一つが「韻を踏む」というものだったのですね。当時の私は転入したてで英語もできず、難儀したことを今でも覚えています。「日本の俳句のような文字数(あるいはワード数)であればもっと取り組みやすいのに」と思ったものです。一方、英語の場合は韻を踏むことが大切なのでしょうね。歌詞などもその傾向がほとんどだと思います。

今回は韻を踏む英語フレーズを見てみましょう。
1 bear the brunt of … (非難や攻撃などの)矢面に立つ
She bore the brunt of unfounded claims, but she bravely made a rebuttal. (彼女は根拠なき主張の矢面に立たされましたが、勇敢にも反駁しました。)
bear the brunt of … は「~などの矢面に立つ」という意味です。bearは「耐える」という意味で、活用はbear/bore/borneです。一方、rebuttalは「反駁、反論」のことです。このフレーズではbear, bruntのbが韻を踏んでいますよね。bruntは「矛先」のことで、古ノルド語bruna(急襲する)から来ています。一方、一文字違いのbluntは「鈍い、鈍感な」という意味になります。アルファベットのlとrでは大きな違いがありますよね。
2 a close call 危機一髪
That was a close call. I nearly hit the pedestrian. (危機一髪だったね。歩行者をはねるところだったよ。)
a close call またはa close shaveは「危機一髪」という意味です。インフォーマルな表現ですが、ビジネスの場面や日常会話ではよく耳にするフレーズです。なお、似たような表現でtoo close to callがあります。こちらは「接戦である」という意味です。
なお、ここでのcloseは形容詞ですので、最後の-seは濁らず、「ス」の音になります。
3 as cool as a cucumber 落ち着き払って
She was as cool as a cucumber during the difficult interview. (彼女は厳しい面接の間も落ち着き払っていました。)
「落ち着き払って、冷静沈着な」を英語でas cool as a cucumberと言います。冒頭のasは入れなくても構いません。この表現もインフォーマルな場で使われますが、特に「難局などに直面した際」の落ち着きを表します。語源は、「暑い日であればキュウリもひんやりしているから」という状態から来ています。
ところでオックスフォード英英辞典でcucumberを引くと、”a long, green-skinned fruit with watery flesh, usually eaten raw in salads or pickled”とありました。他の英英辞典ではvegetableとしていたのもあったのですが、複数の英英辞典ではfruitという区分けであるのが面白いですよね。
4 hale and hearty (高齢者が)元気で、かくしゃくとして
My granddad is already 90 years old, but he is still hale and hearty. (祖父はすでに90歳ですが、今なおかくしゃくとしています。)
haleは形容詞で「元気な、かくしゃくとした」という意味です。活用はhale/haler/halestです。形容詞の活用というのは、辞書でその都度調べると、意外な変化で興味深いですよね。一方、heartyは「愛情のこもった、元気な」という語義です。
ちなみに英語で「高齢者」は以前であればold personと言われていました。けれども最近はかなりこれが抵抗を招くようです。日本語で「高齢者」「ご年配の方」という言い方があるのと同様、英語でも気配りが求められます。英語の場合、elderly person, senior citizenなどが最近では主流となっています。かつて私はイギリスに暮らしていたころ、政府関係の書類でOAPという単語を見かけました。これはold age pension(老齢年金)またはold age pensioner(老齢年金受給者)という意味になります。
いかがでしたか?今月は韻を踏む英語表現を4つご紹介いたしました。なお、日ごろ私が携わっているCNNの放送通訳現場では、口語表現や句動詞、最近の新たな表現などがたくさん出てきます。とりわけ新しいフレーズの場合、辞書には掲載されていないため、Urban Dictionaryというサイトを参考にしています。ことばというのは「イキモノ」であることを改めて感じる次第です。
寒さが厳しくなっていますが、読者のみなさまもどうぞご自愛くださいね。
柴原 早苗
放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。
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