ワンランクアップの英語表現
2020.09.01
スキルアップ
第135回 「工具の用語を用いた英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
先日、ハンガーラックを買いました。トリセツを見ると、何とかひとりでも組み立てられそうです。部品をひとつずつ、トリセツに書かれているように分類していざトライ。家族は皆それぞれ忙しそうでしたので、助けは仰げず。でも何とか無事、完成しました。出来上がったときというのは嬉しいものですよね。結局このラックはハンマーなども必要とせず、手作業だけで完成したのでした。達成感大!

ということで、今回はハンマーを始めとする「工具」を用いた英語フレーズをご紹介します。
1 be at it hammer and tongs 全力で取り組む
She loved going to the gym. She went at it hammer and tongs. (彼女はジムに行くのが大好きでした。全力で取り組んでいましたね。)
hammerは「金槌、ハンマー」のこと、tongsは「トング、挟み道具」という意味です。tongではなく、複数形tongsで用います。「ジーニアス大英和辞典」によると、このフレーズの語源は「かじ屋の音がやかましいことから」なのだそうです。
なお、hammerもtongも動詞として使えます。hammerは「ドンドンたたく」、tongは「挟み道具でつかむ」という意味です。ちなみに2018年に大ヒットとなった映画「ボヘミアン・ラプソディ」ではクイーンの”Hammer to Fall”が出てきます。今、調べたところ、この曲は核戦争がテーマなのだそうです。
2 as hard as nails 情け容赦なしの
If you are going out with a person who is as hard as nails, then it’s better to break up. (情け容赦ない人と付き合っているぐらいなら、別れた方が良いよ。)
「情け容赦なしの」は英語でas hard as nailsと言います。ここでのnailは「爪」ではなく、「クギ」という意味です。「クギのように固い」というのが文字通りの訳ですよね。一方、「爪」という意味でのnailを使ったフレーズも有ります。たとえばnail-bitingは「ハラハラドキドキする」という意味です。
「クギ」という意味でのnailを「ランダムハウス英和大辞典」で調べたところ、色々な種類のクギがイラストで出ていました。common nail、brad nail、roofing nail、screw nailやboat nailといった名前が並びます。興味がある方はぜひ調べてみてくださいね。
3 on the hook 窮地に陥って
My house is in a mess. I’m on the hook! (うちは大混乱状態。私は窮地に陥っています!)
「フック、引っ掛けるための鉤(かぎ)」を英語でhookと言います。初出は12世紀以前だそうで、古英語のhocから来ています。be on the hookは「窮地に陥って、厄介なことに巻き込まれて」という慣用表現の他、魚が「針に引っ掛かって」という意味もあります。
ところでhookで思い出すことがあります。イギリスの小学校に通っていたときの事。その学校にはクロークがあり、コートや授業に必要のない荷物をひっかけるフックがありました。その日の朝、私は自分のコートの下にお弁当袋をひっかけていたのですが、何と、昼食時に取り出したところ、中に入っていたサンドイッチがすべてなくなっていたのです。うーん、よほどお腹を空かせた女子がいたのでしょうね。
4 a round peg in a square hole 場違いな、不向きな人
I don’t think this is my place to belong. I feel like a round peg in a square hole. (ここは自分の居場所でないように思います。場違いに感じるのですよね。)
「場違いな」を英語でa round peg in a square holeと言います。「釘(くぎ)」は英語でpegですが、この表現を文字通り訳すと「四角い穴の中にある丸くぎ」となります。確かに想像してみれば場違いですよね。この表現はa square peg in a round holeとも言います。どちらが丸でどちらが四角なのかを入れ替えることができます。
pegを辞書で引くと沢山の意味が出てきます。たとえばa peg on which to hangは「話を持ち出すきっかけ、口実」、be on one’s pegsは「足がしっかりしている」という意味になります。馴染みのある簡単な単語ほど、実はたくさんの語義があるのですよね。辞書を引くたびに私など新たな発見を嬉しく思います。
いかがでしたか?今月は工具用語を使ったフレーズを見てみました。ちなみにイギリスで暮らしていたころ、多くの人たちが「趣味」に挙げていたのが「庭いじり」とDIYでした。ホームセンターへ行くとそれはそれは多くの商品が並んでおり、イギリス人のDIY好きを改めて感じたのでした。
柴原 早苗
放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。
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