ワンランクアップの英語表現
2021.10.01
スキルアップ
第148回 「電波関連の用語を使った英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
CNNの放送通訳は事前にスクリプトが無いため、すべて生の同時通訳です。本番まで何が出てくるかわかりませんし、速報が流れることもあります。どのようなニュースが飛び出しても、落ち着いて訳出することが求められるのですね。シフトの時間は数時間ですが、座り仕事とはいえ、終了時には首や肩が私の場合、ガチガチにかたまり、放心状態になることもあります。その一方で、新しい英語フレーズに出会えるのも楽しく、本番中に知り得た表現は忘れないうちにメモするようにしています。今日、一本目にご紹介するoff the radarもその一つ。今回は電波関連のフレーズです。

1 off the radar (注目されなくなる)
She is bold enough to try new things because she does not want to be off the radar. (彼女は注目されなくなるのが嫌だったため、大胆にも新しいことに挑戦しています。)
radarは「レーダー」のこと。off the radarは文字通り訳せば「レーダーからいなくなる」で、そこから派生して「注目されなくなる」という意味になりました。反対表現はon the radarです。
ちなみにradarという語が誕生したのは1941年のアメリカ。radio detecting and rangingの頭文字をとったものなのですね。41年と言えば、第二次世界大戦の頃です。アメリカ海軍はレーダーを戦時中に使い始めたのです。
なお、radarのように頭文字をとった語を「頭字語(とうじご、acronym)」と言います。他にもsonar (sound navigation ranging) やlaser (light amplification by stimulated emission of radiation)などがあります。
2 on the same wavelength (波長が合って、気が合って)
I am fortunate enough to have a friend who is on the same wavelength. (波長が合う友人がいることは、私にとってありがたいことです。)
wavelengthは「波長、周波数」のことです。on the same wavelengthで「波長が合う」という意味になります。一方、「そりが合わない」はon a different wavelengthです。
ところで「波長」は物理の世界で「λ」という記号を使います。これは「ラムダ」と読みます。ギリシャ語のアルファベット11番目の文字で、lambdaというスペルです。今、「ラムダ」と言えば新型コロナウイルスの変異株を思い出しますよね。ギリシャ文字は全部で24文字。コロナも24番目になる前に、何とか鎮静化されればと願います。
3 do not have the bandwidth to … (~する余裕がない)
It's better not to accept every single assignment. Otherwise, you will end up saying "I do not have the bandwidth to do them." (すべての課題を請け負わない方が良いですよ。さもないと、「それらをやる余裕がない」と言う羽目になりますから。)
「~する余裕がない」を英語でdo not have the bandwidth to … と言います。bandwidthは「帯域幅」という意味の通信用語です。
まだインターネットが無かった子どもの頃、私はイギリスに暮らしていました。そのころ、とにかく日本語に飢えていたのですね。そこで思いついたのが短波ラジオ。日本語の短波放送が聞きたくて手に入れました。専用ラジオなので「バンド(周波数帯)」が表示されており、ダイヤルをじっくりじっくり回しながら、日本語放送を探していました。よく聞こえたのはドイツのドイチェ・ベレ日本語放送でした。
4 send a clear signal to … (~にはっきりと伝える)
They sent a clear signal to the management about labor shortage. (労働力不足について、彼らは経営陣にはっきりと伝えました。)
signalは「兆し、サイン」という意味で、send a clear signal to … で「~にはっきりと伝える」となります。他にもsend a dangerous signal to … (~に危険信号を送る)、send a confusing signal to … (~に混乱するような合図を送る)などがあります。
ところでsignalの語源はラテン語のsignum(しるし)で、sign(合図する)と-al (~こと)が組み合わさったものです。「サイン」と言えば、日本語で「有名人のサインをもらう」がありますが、英語ではこの場合、autographを使います。ややこしいですよね。
いかがでしたか?今月は通信に関連した英単語からフレーズを見てみました。ちなみに1869年10月23日、東京と横浜の間に公衆電話用の電柱と電線を建設する工事が始まったそうです。それにちなんで10月23日は「電信電話記念日」となっています。
柴原 早苗
放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトで日本語訳・解説を担当中。大学や企業での学習アドバイス経験多数。
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