ワンランクアップの英語表現
2022.05.06
スキルアップ
第155回 「魔物系の単語を使った英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
大学時代に妙に魅了された表現のひとつにdevil’s advocateがあります。意味は「天邪鬼」ですが、悪魔=devilという単語を使っていたことが妙に私のツボにはまりました。「天邪鬼になる」は英語でplay devil’s advocateと言いますが、playを用いるのも興味深いですよね。

今月は悪魔や魔物系の単語を使ったフレーズを見てみましょう。
1daredevil 無謀な
I know my plan sounds like a daredevil project, but I am sure it is good for the marketing. (私の計画が無謀なプロジェクトに聞こえるのは承知しているのですが、マーケティングにとっては絶対良いと思います。)
「無謀な」を英語でdaredevilと言います。この語が誕生したのは18世紀末で他にも「向こう見ずな、恐れを知らぬ」という語義があります。名詞の場合、「向こう見ずな人」です。
ところで「無謀な」と聞いて思い出すのが夏目漱石の「坊ちゃん」の冒頭。「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている」とありますよね。Alan Turney氏の英訳では「無鉄砲」がrecklessnessとなっています。
2 green-eyed monster 嫉妬
She never shows the green-eyed monster of others’ success. (彼女は他者の成功について決して嫉妬はしません。)
「緑色の目をした怪物」をそのまま英語にgreen-eyed monsterと訳すと、意味は「嫉妬」になります。green-eyedは「嫉妬深い」のことで、もとはシェイクスピアの作品から来ているのですね。「ヴェニスの商人」や「オセロ」にgreen-eyedは出てきます。
なお、色は英語と日本語で異なるニュアンスを持ちます。greenには「嫉妬」だけでなく、「活気ある若さ、未熟さ」などの意味も含まれるのです。日本語でも「青二才」という具合に未熟さを「青」で表しますが、日本語の場合、「青」には広い意味で「緑」も含まれます。
3 fiendish ひどい
We are expecting a fiendish weather this weekend. (今週末はひどい天気になるらしいです。)
fiendishは「ひどい」という意味でここでは使われていますが、fiend自体は「悪魔」です。fiendishはほかにも「悪魔のような、魔性の」という語義があります。今回このコラムの執筆にあたり複数の辞書を調べたところ、「ジーニアス英和辞典」の例文が興味深かったです:
The Rubik’s Cube is a fiendish device. (ルービックキューブは実によくできた玩具だ)
こちらで使われているfiendishは「仕組みなどが極めて巧妙な」という意味になります。「ルービックキューブ」にもご注目を。Rubik’sと「アポストロフィ・エス」になっていますよね。
4 devil’s food cakeチョコレートケーキ
I just love chocolates. My favorite is devil’s food cake. (とにかくチョコ大好き。お気に入りはチョコレートケーキです。)
最後にご紹介するのは「チョコレートケーキ」の中でもとりわけ濃厚なチョコケーキを表すdevil’s food cakeです。「悪魔の」というあたりがチョコの真っ黒度合いを表していますよね。ちなみにangel food cakeはアメリカ英語で「エンゼルケーキ」と言いますが、これは日本のいわゆるスポンジケーキです。イギリスにはVictoria sandwich cakeというお菓子がありますが、これは2層のスポンジケーキの中にジャムとクリームを挟んだものです。
以上、今月は「悪魔や魔物」単語が出てくるフレーズをご紹介しました。「悪魔」と言えば、日本の「こんにゃく」は英語でdevil’s tongueと言います。このまま聞いても実物を見たことがないと想像しづらいですよね。日本の料理用語も秀逸で、「鷹の爪」など食べ物とは程遠い感があります。言葉の奥深さを感じます。
柴原 早苗
放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトで日本語訳・解説を担当中。大学や企業での学習アドバイス経験多数。コラム執筆のほか「放送通訳者・柴原早苗」(https://note.com/sanaeinterpreter/) 更新中。
この記事をシェアしませんか?
