ワンランクアップの英語表現
2023.08.01
スキルアップ
第170回 「山や丘にちなんだ英語表現」
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
かつて私が子どもの頃は8月に国民の祝日が一つもありませんでした。学校の夏休みやお盆休暇がありましたので、祝日がなくてもあまり気にならなかったのですね。変化が訪れたのが2014年。山の日が制定され、8月11日が祝日となったのでした。実際に施行されたのは2016年からです。以来、山の日には全国で様々なイベントが開催されています。ちなみに国民の祝日数は日本の場合、16日ほど。世界の中でも多い方です。

今月は「山の日」から連想して、山や丘にちなんだ英語表現をご紹介しましょう。
1 move mountains 大々的な成果を挙げる
If I work hard, I think I can move mountains. (努力すれば大々的な成果を挙げられると思います。)
「大々的な成果を挙げる」を英語でmove mountainsと言います。文字通り訳せば「山を動かす」ですので、確かにニュアンスがわかりますよね。mountainは古フランス語のmontaigneから来ています。元はラテン語のmont-(山)のことです。研究社「新英和大辞典」によると、「通例1000フィート以上のhillよりも大きいものをいう」そうですが、厳密な区分けはなく、「平原地方では数百メートルの高さのものでもmountain」と呼ばれると出ていました。
ところで大きな成果を遂げるという状況で思い出すのが日本語の「虚仮の一念岩を通す(こけのいちねんいわをもとおす)」ということわざ。こちらも「努力をすれば岩をも通すような成果が挙げられる」という意味です。「虚仮(こけ)」は仏語で「真実でないこと」。私はてっきり「苔(コケ)」だと思っていました!
2 over the hill 全盛期が過ぎる
Some people say tennis players will be over the hill after the age of 30. (人によっては、テニス選手は30歳を過ぎると全盛期が過ぎる、と言います。)
仕事などにおいて最盛期や全盛期を過ぎた様子をover the hillと言います。「丘を越えて」というのが元の意味です。この表現は他にも「病気などの峠を越えて、快方に向かって」という語義もあります。hillは「丘」のことですが、アメリカ英語でthe Hillと言った場合、Capitol Hill(連邦議会)を指します。議事堂がある丘の名前から来ています。
ところで先日、テニスのフェデラー選手のインタビュー通訳をCNNで担当しました。フェデラー曰く、昔は20代で引退していたのが、今では30代後半でも現役選手が多いのだそうです。確かにフェデラー、ナダル、ジョコビッチなどそうですよね。
3 mounds of … たくさんの~
I must make a plan since I have mounds of work. (たくさんの仕事があるから計画を立てなければ。)
「たくさんの~」を英語でmounds of …と言います。moundは「土手、堤」のことで、野球の「マウンド」の意味も。他にも「雑草や貝殻、果物などの山」を表すこともあります。なお、野球の「マウンド」は平たく読みますが、英語では「マ」が強くなります。
mounds of …でよく耳にするのはmounds of garbage(大量のごみ)です。ちなみに日本語の「ゴミ屋敷」という語も、よく考えると「屋敷」というのがミスマッチですよね。「ゴミ屋敷」は英語でtrash houseです。
4 slippery slope 危険な先行き
To avoid a slippery slope, I changed my eating habits. (危険な先行きになるのを避けるため、私は食生活を変えました。)
「危険な先行き」を英語でslippery slopeと言います。つるつる滑る坂道は確かに危ないですよね。この例文は私の苦い経験(?)から生まれたもの。実は私自身、ポテトチップスがかつては大好きだったのです。でも、一旦開封して食べ始めると止まらなくなること数知れず。そこで今ではポテトチップスは買わないようにしています。もちろん、特別な機会の時は別ですが、常備することは避けているのですね。
ちなみにイギリス英語でポテトチップスはcrisps。幼少期に私はイギリスに暮らしていたのですが、お気に入りはprawn cocktailとsalt and vinegarという味付けでした。ああ、書きながら食べたくなってきました・・・!
今月は山や丘にちなんだ英語フレーズをご紹介しました。夏山、いつか登ってみたいなとふと思い始めています。
柴原 早苗
放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトで日本語訳・解説を担当。大学や企業での学習アドバイス経験多数。各種サイトでコラムも執筆中。
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