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2024.11.01

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第35回 Swing States:無視される大都会

熱心なファンほど冷遇される?

理不尽だと思いませんか?何十年も同じ携帯キャリアや光回線と契約していても大していいことはないのに、他社から乗り換えて来る人には大きな特典を与える。

顧客をたくさん集めたい会社側からすれば、当然のことかもしれません。「釣った魚にエサはやらない」。かくしてloyal customersよりもdisloyal customersあるいはswitchersのほうが優遇されるというわけです。

政治の世界にも似たところがあります。選挙運動で時間や労力をかけるべきは、熱烈な支持者よりも誰に投票するか決めかねている人でしょう。政党政治では、人単位でなく選挙区単位で、結果がどちらに転ぶか分からない地区に、党としてリソースを注ぐことになります。

その結果、どれだけ人口が多くても、結果が読めていれば適当にあしらわれます。これはアメリカ大統領選にとりわけ顕著です。なぜならElectoral College system(選挙人制度)という独特のシステムがあるから。pros and cons(賛否)のあるこの制度ですが、この面はcons(デメリット)と言えるでしょう。

選挙人制度とは

アメリカ大統領選は有権者が投票する直接選挙ですが、手続き的には①有権者が11月に大統領候補に投票する②各州は選挙結果に基づいて選挙人を任命する③任命された選挙人が12月に集まって大統領候補に投票する、という間接形式になっています。

平たく言うと、各州投票の勝者がその州のelector(選挙人)を総取りし(メイン、ネブラスカの両州は例外)、獲得した選挙人の合計が過半数(全部で538人なので270人)に達したほうが大統領になります(英語ではwin electorsでなくwin electoral votesという表現が一般的です) 。選挙人の内訳は、各州の連邦上院議席数(2名ずつ)+下院議席数(人口に応じて配分)+ワシントンD.C.のみプラス3名となっています。

たとえば2020年選挙で、最多54名の選挙人を持つカリフォルニア州では、民主党のバイデン候補が得票率63.5%で勝利しました。民主党と共和党はそれぞれ選挙人候補者リスト(slate of electors)を事前に作成しますが、結果を受けて民主党のリストの54人が選挙人に任命されてElectoral College(選挙人団)を構成しました。

winner-takes-all(総取り)方式のため、トランプ元大統領が40%弱の票を取っても、選挙人はひとりも獲得できません。大票田でも、勝てない戦なら労力はすべて無駄になります。

選挙人の数=人口上位4州は、いずれもsolid states、つまり民主党(青)と共和党(赤)のいずれかに支持が偏っています(カリフォルニア青、テキサス赤、フロリダ赤、ニューヨーク青)。全米人口の約3分の1を占めるにもかかわらず、大統領選では極端に言えば「無視」されることになります。

注目の7州

逆に重視されるのが、どっちに転ぶか分からない州、いわゆるswing statesです。勢いがこちらに振れたりあちらに振れたり、ということでswingなんですね。battleground statesというフレーズも同じぐらい見かけます。赤と青のミックスでpurple statesと呼ばれることも。

swing statesは固定されているわけではなく、近年の傾向や前回選挙からの動向、直近の情勢調査などをもとに、結果が特に読みにくい州のことをメディアがそう呼びます。

2024年選挙を前にswing statesとされているのは、以下の7州です。

  • ペンシルベニア(19名、人口5位の最重要州)
  • ジョージア(16名、前回約30年ぶりに民主党勝利)
  • ノースカロライナ(16名、共和党が3連勝中)
  • ミシガン(15名、Blue Wallの一角ながら2016年に陥落)
  • アリゾナ(11名、前回24年ぶりに民主党勝利)
  • ウィスコンシン(10名、前々回は赤、前回は青で差はともに1ポイント未満)
  • ネバダ(6名、アジア系有権者の割合が全米で最大の約12%)

特に選挙戦の終盤はカマラ、トランプの両候補者ともこの7州を中心に動くでしょうし、日本からのウォッチャーも注目すべきはここということになります。

ニューヨークやマイアミで熱心に応援しても振り向いてもらえず、気を引くのは自動車産業が集うミシガンの工場労働者や、国境に接するアリゾナの不法移民流入を懸念する人たちの声ばかり。

一途な携帯キャリアユーザーにどこか似たところがありますが、大事なのは良い通信サービス、良い公的サービスを提供してもらうこと。そう信じられる限りは、利用・応援していられるということでしょうね。

素朴な疑問

そもそも、なぜ選挙人制度なんて回りくどいことをやるのか?①合衆国憲法制定とともに導入された当時、直接選挙は物理的に難しかった②大衆の知識不足という面でも教育を受けた選挙人が間に入ることでポピュリスト独裁者の誕生を防ぐ効果が期待された③小さな州にも権限を持たせられる。

通信や教育が発達した今なら真の直接選挙も十分可能で、制度改正の気運が高まった時期もありました。しかし、小さな州も連邦の一部として声を聞いてもらえるといったpros(メリット)もあり、200年以上前に考案されたシステムがいまだに続いています。

それから、任命された選挙人が造反する可能性はないのか?たとえば、共和党の候補者として任命された選挙人が、民主党の大統領候補に投票することはないのか?基本的には事前に自党候補への投票を誓約しますが、造反がないわけではありません。

たとえば2016年選挙では民主党から5人、共和党から2人が造反しました(faithless electorsと呼ばれます)。ただ、過去に造反が選挙結果に影響したことはなく、2016年の事態を受けて州法が厳格化された結果、2020年選挙では造反はありませんでした。

村瀬隆宗


慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。

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