LEARN & PERFORM! 翻訳道(みち)へようこそ
2024.12.02
翻訳
第36回 Birds of a Feather:最近の洋楽ヒット曲に学ぶ英語表現
中上級者こそLearn English with Songs!
「音楽で英語を学ぼう」という甘い誘い文句を昔からよく聞きます。好きな曲を聴くだけで楽しく英語を使えるようになるなら、最高ですよね!ただ…ゼロから音楽だけで英語の基礎力をつけるのは、なかなか厳しそうです。
むしろ、基礎力をつけた上で洋楽に触れたほうが、いろいろな学びがあるように思います。大昔はラジオをFEN(極東放送網、現在はAFN)に合わせたものですが、今はYouTubeやSpotifyなどの配信サービスで手軽に新旧のヒット曲に触れられる時代です。
というわけで、今回は最近はやりの曲を題材にしてみました。
Birds of a Feather (Billie Eilish)
ビリー・アイリッシュの純情派ラブソング。どこか懐かしいリズムとメロディーは90年代ポップス、ジャネット・ジャクソンや宇多田ヒカルの楽曲を彷彿させ、若者だけでなく中年にも愛着を感じさせます。タイトルの入った、サビ部分のリリックです。
Birds of a feather, we should stick together.
(気の合う同士、くっついていようね)
これは次のことわざをもとにしたものでしょう。
Birds of a feather flock together.
(同じ羽根の鳥は群れる=類は友を呼ぶ)
大好きな人とずっと一緒にいたい、という恋心をストレートに唄う歌詞ですが、本人いわく「『自分の命を犠牲にしてでも』という一般的なラブソングのテーマとは逆にした」そうです。
たとえば最初にこうあります。
I want you to stay 'til I'm in the grave, 'til I rot away, dead and buried, 'til I'm in the casket you carry.
私があなたに棺桶で運ばれ、墓に埋められ、身が朽ち果てるまで、あなたには生き続け、私を愛し続けてほしい。
うーん、どうなんでしょう??個人的には共感できませんね。。愛する人(や犬)がひとりぼっちで生きているところを想像すると、残して先に旅立つわけにはいかない。そう思ってしまいます。寂しい思いをするのは、自分でいいと。自分が先立ったとして、ほんとに相手が寂しがるかどうか、わかりませんけどね!
Die with a Smile (Lady Gaga & Bruno Mars)
レディー・ガガとブルーノ・マーズという、大物男女のデュエット曲。邦楽にたとえるなら…「三年目の浮気」?「愛が生まれた日」?エモーショナルな歌唱は聴きごたえ満点で、ロマンチックなリリックはまさしく王道。サビはこんな感じです。
If the world was ending, I'd wanna be next to you.
If the party was over and our time on Earth was through, I'd wanna hold you just for a while and die with a smile.
(世界が終わりゆくなら、あなたの隣にいたい/このパーティーが終わり、地球で過ごせる時間が尽きるなら、しばしあなたを抱いて笑顔で死にたい)
ベタやな~という感じもしますが、was と過去形になっているのは、仮定法過去ですね(仮に~する/になるとすれば)。throughは前のoverと同じく「完了した、終わった」の意味ですが、重複を避けつつyouと韻を踏んでいます。
この曲、スローなテンポで意外と歌いやすいので、ぜひ挑戦してみてください。カラオケ採点が90点を超えたことがない私でも、それなりに?歌えましたよ。デュエット相手が見つかると、なおいいでしょう。
Enchanted (Taylor Swift)
世界の歌姫に上り詰めたテイラー・スウィフトの独占インタビューを、8年ほど前に某音楽雑誌で翻訳したことがあります。彼女に限ったことではありませんが、芸能人インタビューの英日翻訳で思いのほか難しいことがあります。何だと思いますか?
それは、”I”をどう訳すか。一人称の訳し方です。日本語だと「私」「僕」「俺」「わし」「うち」などなど、いろんなパターンがあり、それぞれにイメージがあります。ですから、まずはキャラクター調査から入り、「この人はどの一人称でいくか」決めるわけです。
たとえば、ビートルズの元メンバーのインタビュー記事では、繊細な印象のポール・マッカートニーには「僕」、ワイルドな印象のリンゴ・スターには「俺」を充てました。女性は「私」がスタンダードで、テイラーさんもそうしましたが、参考に読んだ翻訳にはオテンバな「アタシ」を採用したものも。
Enchantedは最近の曲ではないものの、今年2024年の日本ツアーでも演奏され、今なおよく耳にします。テーマは、退屈なパーティーでの運命的な出会い。豊富な恋愛経験と高い作詩力の織り成すリリックから、文法問題で出題されがちな現在分詞と過去分詞の区別を再確認しましょう。
It was enchanting to meet you.
(あなたとの出会いは魅惑的だった)
I was enchanted to meet you.
(あなたに出会って魅惑された)
enchantは「魅惑する、魔法にかける」。上は主語がto meet youを指すitで、それが「魅惑するようなものだった=魅惑的だった」。下は主語がIで、私が「魅惑された」ということです。
なぜ2通りの表現をしたのか?形式主語を用いた現在分詞のほうは、客観的な印象を与えます。一方、Iを主語にした過去分詞のほうは主観的です。照れながらやや間接的に感想を伝えた上で、自分の気持ちを直接的に届ける。そんな効果を狙ったのではないでしょうか。ました(faithless electorsと呼ばれます)。ただ、過去に造反が選挙結果に影響したことはなく、2016年の事態を受けて州法が厳格化された結果、2020年選挙では造反はありませんでした。

慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。
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