ワンランクアップの英語表現
2010.09.01
スキルアップ
第18回:度量衡単位を使った英語表現
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
日本ではメートル法が使われており、近年はイギリスをはじめ、ヨーロッパもEU統合などの影響でメートル法が普及しています。しかしアメリカでは今なお「ヤード・ポンド法」という単位を慣習的に使用しており、インチ、マイル、ポンド、ガロンなどの呼び方が一般的に見られます。アメリカでコピー機を使う際、用紙サイズが「A4」や「B5」ではなく、「8.5”x 11”」などの表示に戸惑った方もいらっしゃることでしょう。そこで今月号ではヤード・ポンド法に出てくる単位を使った英語表現をご紹介します。

1.Is revenue the only yardstick of success? (収入だけが成功の判断基準でしょうか?)
yardstick とは「木や金属製のヤードさお尺」ですが、「判断基準」「ものさし」といった比喩的な使い方もされています。前置詞の of を後につけて「the yardstick of ~」という形にすると、「~の判断基準」という意味になります。上記の例文は下記のようにも言い換えることができます。
・Is revenue the only way to measure success?
・Is revenue the only criterion for success?
なお、アメリカのMerriam-Webster社が管理するオンライン辞書(merriam-webster.com)では、単語を検索するとその語が初めて使われた年を見ることができます。yardstick は1610年、criterion は1622年ですので、ずいぶん前から使用されている語であることがわかります。
2.We avoided bankruptcy by inches. (私たちはかろうじて倒産を免れることができました。)
by inches は「あやういところで」「かろうじて」という意味です。似たような表現ではby a neck(わずかの差で)というものがあり、We won the race by a neck.(私たちはレースにわずかの差で勝った)という表現があります。
ところで1インチは「12分の1フィート」ですが、もともと inch はラテン語の uncia(12分の1)からきています。重さを量るオンス(ounce)の語源です。ちなみに1オンスも「12分の1ポンド」。ヤード・ポンド法はいずれも「12」の数字を基準にしていることがわかります。
3.As a new sales manager, he has a willingness to go the extra mile. (新しい販売部長として、彼は一層の努力をする意思があります。)
go the extra mile とは、もともと聖書から来た表現です。新約聖書「マタイによる福音書」第5章41節には、「And whoever forces you to go one mile, go with him two miles.(もし、だれかが、あなたをしいて一マイル行かせようとするなら、その人とともに二マイル行きなさい)」とあります。
上記のように、英語には聖書を源とした表現がほかにもたくさんあります。英語学習をするうえで、聖書、ギリシャ神話やシェイクスピアなどはぜひ一度通読しておくことをお勧めします。
4.My boss has asked me to go to London tonight but you can’t put a quart into a pint pot! (上司が今晩ロンドンに行くようにと言ってきましたが、それはどう考えても無理な話でしょう。)
put a quart into a pint pot は字面通りとらえると「1パイントの容量の容器に1クォートを入れようとする」という意味です。1クォートとは2パイント分ですので、容量の倍を詰め込もうとしていることになります。転じて「不可能なことを試みる」というニュアンスになります。上記例文では put の代わりに fit や get を使うことも可能です。
さて、冒頭で「イギリスではメートル法が導入されている」と書きましたが、pint(約0.57リットル)という言葉は今なお健在です。pint 一言だけで「1パイントのビール(あるいはミルク)」という意味も持っているのです。たとえば I had a good time with my friend with a pint in my hand.は「ビール片手に友人と楽しい時を過ごした」と訳すことができます。
メートル法になじんだ私たちにとって、ヤードやポンドなどは換算するだけでも大変です。しかし、その一方でこうした表現が色々あることを考えると、数字や度量衡がいかに人々の文化に根付いているかもうかがい知ることができます。数年前、日本では「数え方の辞典」という本が話題になりましたが、数や数え方について新たな知識を仕入れることは、言葉への探求につながると思います。
柴原 早苗
立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科兼任講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSE にて修士号取得。ロンドンのBBC ワールド勤務を経て現在はCNNj、CBS イブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。NHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC 英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)。
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