村瀬隆宗のプロの視点『LEARN & PERFORM! 翻訳道(みち)へようこそ』
2026.03.02
翻訳
第51回 secular growth:「世俗的成長」とは?
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳者養成コース講師 村瀬隆宗
二つの経済政策
高市自民党による文字通りのlandslide victory(地滑り的大勝)を受け、株価は高騰。日経平均は、少し前まで長らく1万円前後で推移し、バブル崩壊前の1989年末に付けた3万8,915円など二度と届かない高みのように見えましたが、今や6万円に迫る勢いです。
景気浮揚のための経済政策は、大きく2つに分かれます。ひとつは積極的なfiscal policies(財政政策)。政府支出を増やして民間のお金を巡らせることで、景気を良くしようというものです。高市首相は、これをやろうとしています。一時的に借金が増えるとしても、景気が良くなれば税収という形でそれ以上のリターンとして返って来る、という積極的なアプローチです。
もうひとつは緩和的なmonetary policies(金融政策)。これは政府ではなく中央銀行である日本銀行の管轄であり、金利を全般的に引き下げることによって、企業が借り入れをしやすい状態にして、投資を促し、ひいては経済を活性化しようというものです。
ただし、こうした景気刺激策によって市中にお金がたくさん流れ出すと、prices(物価)は上がります。1万円札をたくさん刷れば(実際に刷らなくても、電子データ上でもお金が増えれば)、その価値は下がるからです。お金の価値と物価は、反対の関係にあります。お金の価値が半分になれば、以前1本200円だった牛乳の対価は、その倍の400円になれなければ釣り合いません。 ですので、日銀は最近、物価が上がる中で金利をむしろ引き上げていましたが、その独立性を脅かすかのように、高市首相は利上げ継続に難色を示しました。
ややこしい投資用語
そんな高市さんの積極姿勢を受け、執筆現在では株式市場は沸き立っています。多くの投資家が、株式を購入して「買いのポジション」を取っています。これを「ロングポジション」とも言いますが、なぜロングなのでしょう?その逆の「ショートポジション」とは、どういうことでしょう?
逆のほうから説明しましょう。「ショートポジション」とは、「売りのポジション」のことです。買いならともかく、「売りのポジション」は感覚的にイメージしにくいかもしれません。
投資家は、「この株は上がる」と思えば買います。値上がりした後に売れば、儲けを得られるからです。実は、その逆のこともできます。つまり、「この株は下がる」と思えば、その株を持っていなくても、売ることができるのです。
持ってないのに売る?仕組みとしては、株を(証券会社から)借りてきて、それを売ることになります。思惑通り株価が下がれば、安く買い戻して、その株を返すことで、儲けることができるというわけです。これを「空売り」と言います。
ただし、空売りの場合、株を借りている間、レンタル料を払い続けなければなりません。ですから、一般的に「売りのポジション」は短い間しか取れません。そのため、これをshort positionと呼ぶようになりました。
それに比べると、買いポジションは長く取れます。場合によっては何年も保有し続け、株価が何倍にもなったところで売ることもできます。ですから、long positionと呼ばれるのです。
ところで、高市発言は為替にも影響をもたらします。一般的には、積極財政を打ち出し、国の借金増加が懸念されると、為替は円安に振れます。ひとつには、上述のようにインフレが進むと想像されるからです。物価と通貨価値は表裏一体であり、円の価値が下がれば円安になります。英語ではweaker yen(それ以前と比べて弱くなった円)ですね。
また、利上げ継続に難色を示した際も、大幅な円安をもたらしました。金利が高ければ、投資家はその通貨を買って、それを預金口座に入れて高い利子を得ようとします。利上げをやめれば、(他の通貨よりも)円を買おうとする人が減ります。すると円安になります。
1ドル150円が1ドル160円になると円安?というと直観に反するかもしれませんが、これはドルの価格を表示したものだからです。ドルは高くなっていますね。stronger dollar(ドル高)ですから、相対的にweaker yenということです。
また、利上げ継続に難色を示した際も、大幅な円安をもたらしました。金利が高ければ、投資家はその通貨を買って、それを預金口座に入れて高い利子を得ようとします。利上げをやめれば、(他の通貨よりも)円を買おうとする人が減ります。すると円安になります。
1ドル150円が1ドル160円になると円安?というと直観に反するかもしれませんが、これはドルの価格を表示したものだからです。ドルは高くなっていますね。stronger dollar(ドル高)ですから、相対的にweaker yenということです。
なぜ「世俗的成長」が「長期的成長」なのか
高市政権がproactive government spending(積極的な政府支出)で目指すのは、日本経済の長期的な成長ですが、これをよくsecular growthと表します。secularはnot having any connection with religion(宗教と一切関係がない)、すなわち「世俗的」という意味ですが、なぜこれが「長期的」という意味を持つようになったのでしょうか。
ラテン語の語源saeculumまでさかのぼると、もともとは一時代、一世代、つまり「長い時間」という意味でした。ただし、長いといってもあくまでも「この世」の中での話であり、eternity(永遠)ではありません。
前者のニュアンスからは「長期的」、後者へのフォーカスからは「世俗的」という意味になった、というわけです。
対義語はcyclical growth(循環的=短期的成長)。「景気の波による一時的な成長」であり、これに対してsecular growthは波に左右されない、経済の構造的な成長ということです。積極財政によって末長く続く産業が育てば、cyclicalにとどまらない、secularな成長が実現するかもしれません。

慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。
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