村瀬隆宗のプロの視点『LEARN & PERFORM! 翻訳道(みち)へようこそ』
2026.05.07
翻訳
第53回 Relevant vs. Related:単語帳や辞典訳に頼らないで
目次
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳者養成コース講師 村瀬隆宗
「単語帳回し」の弊害
日本で行われてきた英語学習の王道
単語帳で語彙力をつける。文法の参考書を読んで問題集を解く。読解問題やリスニング問題、英作文に取り組む。日本では、これが英語学習の王道とされています。
同じ単語帳を何度も「回す」ことで語彙力強化を図ります。そして、問題集と同様に高校・大学受験用から、英検用、TOEIC用と、目的に合わせて何冊もこなしていきます。
単語帳・問題集 VS. 多読・精読
私も単語帳や問題集に頼る王道で大学受験に備えました。しかし、大学入学以後は専らペーパーバックや雑誌、特にNewsweekを読むことで英語力を高めました。
どちらが効果的で効率的なのでしょうか。私は、以下の理由で多読・精読を強く推します。
①単語帳だけでは本当の語彙力はつかない
例文がちょろっと載っている程度の単語帳だけでは、その単語が実際にどのようなニュアンス、どのような形で使われているのか、把握できません。さまざまな文脈で出くわしてこそ、多面的・立体的に理解できるものです。単語帳で同じ単語を100回見るより、いろいろな文章を読む中で5回「エンカウント」いえencounterしたほうが、はるかに意味があります。
②日本語とのリンクが強まるほどスムーズな読み聞きの妨げになる
単語帳を回すことで、単語とその日本語訳のリンクは強まります。たとえばdevelopと言われたら「発展する!」と即答するゲームで勝つことが目的なら、それでいいでしょう。しかし、文章を読み聞きできるようになることが目的であれば、リンクの強さが邪魔になりかねません。英文を速く正確に読むには、英語を英語のまま理解する必要があります。つまり、いちいち日本語に変換してから理解しようとするべきではありません。日本語が浮かばないようにするには、英語の文章にたくさん触れる必要があり、単語帳にしがみつくのは逆効果です。そして、スムーズに読めなければ、聞いて理解することもできません。
③文章を読まずして読解力はつかない
単語帳や問題集だけでは、いざ骨のある文章を読んだとき、単語や熟語の意味を思い出し、各文の意味をつかむだけで精一杯でしょう。それでは、流れを意識しながら段落の要点、文章の要旨をつかむことはできません。そのため、試験でも読解問題で点が取れません。内容を頭にとどめながら読む訓練を十分にしていないと、本文と設問の間を行ったり来たりして無駄に時間を費やすことになるでしょう。
④知識が身につかない
たとえばTOIECの読解問題集など、架空のストーリーを読むことに多大な時間を費やすことになります。どうせ時間をかけて真剣に読むなら、新聞や雑誌で世界の最新ニュースにしたほうが、知識の蓄積につながります。ライティングやスピーキングでも、ネタに困らなくなるはずです。
⑤簡単な単語ほど難しい
読解でつまずきやすいのは、たとえば英検1級対策の単語帳に載っているような難解語句ではなく、シンプルな単語です。翻訳学校の受講生の訳などを見て、読解上最も難しい単語はandだと、私は思っています。andが何と何をつないでいるのか。そういう判断に慣れるために必要なのは単語帳や問題集ではなく、生の英語にたくさん触れることです。
結論として、基礎固めのための単語帳や文法問題集の活用は有効ですが、ある程度の土台ができたあとは多読・精読をメインにしたほうが英語力を高めるために効果的です。そうすればTOEIC900点、英検1級など、個別に対策しなくてもクリアできるはずなので、効率的でもあります。
辞典訳も翻訳の妨げに
「related=関係のある」「relevant=関連した」?
たとえば、related「関係のある」、relevant「関連した」のように丸暗記しただけでは、使われ方によってはうまく解釈できず、翻訳もできないでしょう。
His work has never felt more relevant.
「彼の作品が今よりも関連しているように感じたことはない」
これでは、何が言いたいのかよく分かりません。そこで英英辞典(Oxford Learner’s Dictionary)でrelevantを引くと、こうあります。
the fact of being valuable and useful to people in their lives and work(生活や仕事で人にとって価値があり、役立つという事実)
訳すのは、文全体を解釈してから
つまり、relatedのように「ただ単に関連性がある」というだけでなく、加えて「重要であり、役立つ」ということでしょうか。それを踏まえて文全体を解釈すると、たとえばこのように訳せます。
「彼の作品が、これほど響いたことはない」
「響く」、「身にしみる」などの訳し方ができそうですが、翻訳する上では、こういう言葉に置き換えるということではなく、まずは日本語を介さずに解釈してから、そのイメージを伝えられるような言葉にすることを心掛けるべきです。
related「関係のある」、relevant「関連した」という典型的な辞典訳にしても、私は逆のように感じます。その人などにとって重要で「関係がある」はむしろrelevantで、それほど直接的でないにしても「関連性がある」はrelatedのほうが、適していないでしょうか。

慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。
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