村瀬隆宗のプロの視点『LEARN & PERFORM! 翻訳道(みち)へようこそ』
2026.06.03
翻訳
第54回 Friendshoring:時代の変遷とともに生まれた新語
目次
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳者養成コース講師 村瀬隆宗
offshoring の成り立ち
offshore - 始まりはタックスヘイブン
go on(続いていく)からongoing(進行中の)、over the dose(適量を超えて)から overdose(薬を過剰摂取する)のように、フレーズから生まれた単語の例は枚挙にいとまがありませんが、ビジネスで使われる offshoring(国外への事業拠点移転)も数段階の変化をたどっています。
スタートはoff the shore(岸から離れて)というフレーズです。これがoff-shore(沖合の、海外の)という形容詞になり、普及とともにハイフンが脱落してoffshoreとなります。
そして、金融の世界では特定な意味を持つに至りました。ロンドンの金融関係者が、イギリスの沖合にあるチャネル諸島をoffshoreで指すようになったことがきっかけです。
チャネル諸島 はイギリス国王に属していますが、独自の法律を持っています。つまり、イギリスの税制は適用されず、一部の島はtax haven(租税回避地)となりました。
offshoreのチャネル諸島はタックスヘイブン。ここから、offshoreに「自国の法律や税制が届かない、規制の緩い国外の場所」という意味が金融界で定着しました。offshore account(オフショア口座)といえば、タックスヘイブンで開設した口座です。
金融界からビジネスの世界へ
時を経て、1980年代にビジネスの世界で動詞として使われるようになりました。「生産などの事業拠点を、国外に移転する」という意味です。当時、企業が安価な労働力を求めるなかでグローバル化が進み、中国や東南アジアに工場を建設するのが時代の流れでした。offshoreはその動きを表現する動詞として使われたわけです。これが動名詞になってoffshoring、ということですね。
時代とともに生まれた派生語
offshoreからの国内回帰:reshoring
ところが、offshoringによって生産拠点となった途上国も、発展に伴い労働コストが上がっていきます。同時に、free trade(自由貿易)の流れが、国際関係の悪化やセキュリティ意識の高まりなどで反転し、保護主義が台頭します。さらに、コロナ禍によってsupply chain disruption(サプライチェーンの混乱)、つまり世界に分散した供給網が途切れて生産に支障が出る事態が発生しました。
その結果、生産の国内回帰が起こりました。拠点を自国に戻し、サプライチェーンを国内で完結させて生産を安定させるとともに、雇用を生み出そうとしたわけです。この動きを表すために、reshoreという動詞が使われるようになりました。つまり、reshoringとは「事業拠点の国内回帰」です。
しかし、途上国や新興国で生産する場合に比べて、労働コストはどうしても高くなってしまいます。ただ、たとえば米中の貿易紛争がヒートアップし、互いに高い関税をかけるようになった状況では、もはや中国に工場を作って、そこからアメリカへ輸出することは難しくなります。関税によって価格が跳ね上がってしまうからです。
そして、friendshoringへ
そこで、関係が悪化していない、したがって関税も比較的低い新興国に生産拠点を移す動きが、近年広がりました。フレンド国へのoffshoringということで、friendshoringと呼ばれています。2022年にFRB(連邦準備理事会、アメリカの中央銀行)のイエレン議長(当時)がスピーチで使ったのが最初のようです。
アメリカはメキシコ、ベトナム、インドなどをfriendshoring先にしています。日本企業もChina Plus One(中国プラス1カ国)戦略をとる企業が増え、friendshoring先としてベトナム、タイ、インドネシア、インドなどが選ばれています。

慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。
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