ワンランクアップの英語表現
2015.04.01
スキルアップ
第70回 動物に関連する英語表現
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 柴原早苗
私は幼少期にイギリスに暮らしていたのですが、家の裏手に森がありました。近所の人の話によると、そこはかつてヘンリー8世の狩猟場だったそうです。森の中には宮殿もあり、英国国教会のカンタベリー大主教が夏の保養所として過ごしていました。

我が家の庭には森の小動物がよくやってきました。生まれて初めて間近にキツネを見たときは驚きましたが、毎晩遊びに来るようになり、次第にテラス近くにまで寄ってくるようになりました。他にもウサギやリスなど色々な動物がいて、興味津々に観察したものです。
さて、英語の世界では動物を用いたフレーズが色々とあります。そのうちの4つをご紹介しましょう。
1.badger someone into …ing
My mother badgered me into cleaning the room.(母が私に部屋を片付けるようしつこく言ってきたんだ。)
badger は「アナグマ」のことですが、動詞として上記のような使い方があります。この例文は、子どもが母親に「片づけなさい」と言われている様子を表しています。何度も繰り返し注意されている感じが出ていますよね。
badger someone into … ing は他にも「しつこく苦しめる、悩ます」という意味があります。いずれも中世に行われた badger-baiting という、犬とアナグマを戦わせるスポーツに由来します。アナグマは普段おとなしいのですが、攻撃されると猛反撃に出る特徴があり、そのツメで犬がケガをするほどだそうです。このスポーツはその後闘犬に変化したと言われています。
2.squirrel away
Don’t waste your money. You should squirrel away for the future. (お金を無駄にしてはいけないよ。将来のために蓄えておかないと。)
squirrel は「リス」という名詞の他に「(将来のために)蓄える、隠しておく」という意味があります。squirrel away という用法が生まれたのは20世紀の始めだそうです。リスが木の実などを地面の下に隠しているという習性が語源になったものです。
ところで私は既知の単語でもあえて発音を確認するよう心がけています。自分で正しいと思い込んでいた発音も、辞書の発音記号や音声機能で確認すると、単なる思い込みでこれまで来ていたことに気付かされるからです。squirrel の squi の部分はアメリカ英語とイギリス英語では異なります。前者は「スクワ」、後者は「スクイ」という発音です。
3.be completely foxed
I’m afraid I can’t explain it because I am completely foxed.(残念ながらそれの説明はできないなあ。完全に混乱しているので。)
be completely foxed は「完全に混乱している」という意味です。上記の文章は、説明しようにもわけがわからないという状態を表しています。
fox は名詞の場合「キツネ」、特に「雄ギツネ」を意味します。雌のキツネであれば vixen です。キツネは日本文化では「人を化かす」という意味合いを持ちますが、英語にはそのような考えがなく、「ずるがしこい」というニュアンスに留まっています。イソップ物語にも出てきますよね。
ちなみに紙辞書を引くと、前後左右の単語をすぐ眺めることができます。fox の見出し語の下には foxglove (ジギタリス)という植物名が、また、さらに読み進めると foxhole (避難場所)などという語も出てきました。こうした「ついで作業」は私にとって実に楽しいひとときです。
4.pull a rabbit out of the hat
Wow! You did that all by yourself? It’s like it pulling a rabbit of the hat. (わあ!自分一人でやったの?手品みたいだねえ。)
英語でウサギ、特に「家ウサギ」は rabbit で、「野ウサギ」は hare と言います。「不思議の国のアリス」に出てくる「白ウサギ」は The White Rabbit でしたよね。
pull a rabbit out of the hat は「(手品で)ウサギを帽子から取り出す」という語義の他、「驚くようなことをする」という意味もあります。上記の例文は「手品みたい」と訳されています。手品で帽子からウサギを取り出すことを他にも hat-trick と言うのですが、「ハットトリック」はサッカー用語の場合、「一人の選手が3点を決めること」という状況を表しますよね。
今回は小動物たちに登場してもらい、英語表現を見てきました。ぜひ皆さんもご自分の好きな動物の単語を辞書で引き、どのような意味を持つのか調べてみてください。いわゆる「勉強、勉強」したものでない学びというのも楽しいですよ。
柴原 早苗
放送通訳者、立教大学・獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSE にて修士号取得。ロンドンのBBC ワールド勤務を経て現在はCNNj、CBS イブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。NHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC 英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)。
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