和田泰治のプロの視点『読書三到~或る通訳者の本棚』
2026.10.01
通訳
第11回 “Rocket Boys” Homer Hickam
目次
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語通訳者養成コース講師 和田泰治
通訳者にとってReading(多読)が重要な理由
通訳者として語学力を磨くための学習法、訓練法は数々あれど、何かひとつ挙げろと言われたら”Reading”だろう。筆者自身もこれまで何人もの先輩通訳者や通訳スクール時代の講師の先生から「とにかくできるだけたくさん本を読みなさい」と指導され、今日に至るまで実践してきた。特に外国語である英語のリーディングは毎日1ページであってもよいとの意識で継続している。
要は大量の英語のインプットを頭の中で高速に処理し続けることである。母国語の日本語で読書する時と同様に語彙や文法、文型の解析などを意識することなく直接その意味や情景が頭の中にイメージとして可視化されることを究極の目標としている。
対象となる書籍は何でもよいというのが筆者の持論だ。重要なのは学習、訓練の一環とはいえ、あくまで興味を持ち、楽しんで読み進められるかどうかという点である。毎日最低でも1ページは必ず読むとは書いたが、実際には、おもしろくて読みだすと夜を徹しても止まらないというのが理想的だ。自分自身が興味を持ち、事前知識も十分に持っているコンテンツであればあるほど、知識から起点言語(この場合は英語)で作者が伝えようとする意味が直感的に理解できるので、意味から逆に文法や文型を解析することもできるし、未知の語彙に出くわしても文脈からその意味を推測できる確率が高くなる。これは通訳のプロセスでも全く同様だと思う。通訳の際にはインプットが音声で入ってくるところが異なる。
今回の一冊 『Rocket Boys』
さて、筆者にとって最も興味を持ってリーディングを継続できる分野は「ノンフィクション」と「推理・犯罪小説」だ。ノンフィクションについても特に事件・犯罪に関するものが多いのだが、今回ご紹介するのは事件・犯罪ものではなく、アメリカでは教科書にも掲載されたというHomer Hickam氏による自伝的ノンフィクションの”Rocket Boys”だ。
『October Sky』の原作として知られる名作
この作品は”October Sky”(邦題「遠い空のむこうに」)として映画化もされている。舞台は1957年のアメリカはウエストバージニア州のコールウッドという炭鉱町である。「スプートニクショック」に全米が揺れるさなかに自分たちだけでロケットを作って打ち上げるという途方もない計画を実行する少年たちの物語だ。
原作を読むよりも映画を鑑賞したのが先だったのだが、映画は比較的明るく清々しい青春ドラマとしてのエッセンスに絞り込んだつくりになっている。そのため、原作では中心的な役割を担っている社会的な背景や思春期の少年が心の成長期に経験した哀しく切ないエピソードなどは詳しく描かれていない。映画は映画でよくできているのだが、原作を読んで初めてこの作品がアメリカで高い評価を受けている背景が理解できた。
炭鉱町のコールウッドに斜陽化の影が忍び寄る。炭鉱の仕事に頑固なまでの誇りを持ち続ける厳格な父親と、ロケットサイエンスに傾倒する次男坊の断ち難い確執が続く。高校アメリカンフットボールチームのスター選手である兄ともそりが合わない。失恋をしたかと思えば、ロケットは失敗続きで町の大人たちの白い目に容赦なく晒される。
だが、そんな彼を暖かく支えてくれる人たちがいる。厳しくもやさしい母親。多士済々な悪友に、若い女性教師や炭鉱の技術者たち。支援の輪は少しずつ広がってゆき・・・・・。
古き良き時代の思想や文化を愛し、捨てられない一方で、抵抗しながらも新しい潮流も受け入れ、未知の世界へと一歩を踏み出し、その葛藤の末に夢を実現する。アメリカ人が誇りに抱くフロンティア精神、アメリカンドリームの原点を感じさせるストーリーである。
作品自体は一人称で語る作者が主人公なのだが、特に母親の存在感が爽快だ。閉鎖的で時代に取り残されつつある炭鉱町で、現場のトップに立つ夫を愛し、支えながらも新しい時代へ飛び出してゆこうとする息子の背中を全力で押し続ける。ロケットもどきの物体で家の垣根を吹き飛ばされても動じない肝っ玉母さんであるが、実はその一方で少年の大学進学費用を夫にも内緒でこっそり貯めているという先見性と実行力に満ちた魅力的な女性だ。
通訳学習者にもおすすめしたい一冊
英語は読みやすく、ストーリー全体も起伏に富んでいて読み応えがある。斜陽の炭鉱町を舞台にしているところは日本映画の「フラガール」に通ずるものがあるし、少年、少女たちのちょっとあぶない私生活や恋愛談は「アメリカン・グラフィティー」的でもあって最後まで飽きずに読み切れる作品だ。
さて、洋書を読もうキャンペーン第二弾として、次回は筆者の得意分野である「事件・犯罪ものノンフィクション」の中から数作品を選んでご紹介しよう。ご興味のある方は是非。
今回はここまで。ごきげんよう。
参考文献:
Homer Hickam(著)『Rocket Boys』

英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。
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