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2023.09.01

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第21回 Excuseflation:値上げの理由は単なる口実か

「便乗」という言葉はネガティブなニュアンスで使われがちですが、その代表格が「便乗値上げ」ではないでしょうか。price gouging や profiteering という言葉が昔から使われていますが、その文脈で最近よく目にする新語が greedflation(強欲インフレ)です。

greedflation は便乗値上げそのものというより、その結果としての物価上昇です。企業が原材料高など、何らかのきっかけで値上げをし、その要因が収まっても値段を元に戻さない。自分だけ利益をむさぼり、消費者は物価高に苦しむ。それが greedflation というわけです。たしかに、IMFが2023年6月に発表した分析結果では、欧州のインフレ要因の約半分を企業利益の増加が占めていました。

これと一緒に、または代わりに用いられるのが、excuseflation(口実インフレ)という言葉です。「コロナで部材供給が不足しているもので」「鳥インフルエンザが流行しているもので」「ロシアからの輸入が途絶えてしまったもので」といった弁解で「それなら仕方ないか」と消費者を納得させ、値上げを受け入れてもらう。その新しい価格水準に慣れさせ、値段を元どおりにしないことへの不満が出ないようにする。これが excuseflation です。

インフレを甘受して生活苦にあえぐ消費者を尻目に石油会社をはじめ多くの企業が過去最高益を記録し、株主に高い配当で還元している。潤うのは金持ちだけで、庶民は苦しむばかり。インフレ率が非常に高い一方、賃金と経済成長が伸び悩むイギリスの新聞では、こういう論調の中で greedflation や excuseflation という言葉が特によく使われています。

しかし、The Economist などでは「企業の利益増加はインフレの結果であり、原因ではない」という主張も見かけます。コロナ禍の間に給付金で消費者の需要が旺盛になった一方、サプライチェーンが分断されて供給は細った。需給がひっ迫すれば価格が上がるのは当然の成り行きで、その結果、利益が増えるのも当然。断罪すべきは物価の安定化に失敗した政府や中央銀行であり、企業の強欲さではない。

なるほどと思える半面、マクロで見すぎている気がします。経済全体としてはそうだとしても、業界によっては暗黙に足並みをそろえてコストの上昇幅以上に値上げし、そのまま据え置くというケースも多いはずです。生活必需品など、価格が上がっても買うしかなければ、消費者は足元を見られやすくなります。

もともと、rockets and feathers というフレーズが表すように、値上げは急激、その後の値下げは緩やか、というのが一般的なパターンです。緩やかであっても下がるならマシですが、当初の問題が解消されても、あたかも最初からその水準であったかのように下がらないとなると、greedflation と命名されても仕方ないかもしれません。

ただし、企業側にも言い分はあるでしょう。たとえば原材料高が落ち着いても値下げをしないのは、単なる一服、一時的な落ち浮きにすぎない可能性を考えてのことかもしれません。人手不足など、他の問題でコストがかさむからかもしれません。値上げの際のexcuse は誰もが口にする言い訳にすぎませんでしたが、価格を元に戻さない excuse を聞けば各社の本音が見えてきそうです。

ところで、「便乗」にはポジティブなもの(healthy piggybacking)もあります。この夏は母校の高校が甲子園に出場。トーナメントを勝ち進んだチームを応援に行こうと友人に誘われると、翌朝の始発で球児のメッカに駆けつけました。普段、居酒屋などで酔っ払って校歌を合唱する人たちを小ばかにしていた私も、ここぞとばかりに自らすすんで肩を組み、応援歌を大熱唱。文字どおり Jump on the bandwagon して準決勝と決勝を楽しみました。

村瀬隆宗


慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。

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