村瀬隆宗のプロの視点『LEARN & PERFORM! 翻訳道(みち)へようこそ』
2026.01.05
翻訳
第49回 experience:可算と不可算、その違いは?
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳者養成コース講師 村瀬隆宗
カギは英語話者のイメージ
英語にあって日本語にはないものほど、正しく使うのが難しいものです。冠詞、そして可算名詞と不可算名詞はその代表格。翻訳講座で受講生の訳文を添削していると、ミスをよく見かけます。
ルールを細かく網羅しようとする書籍は多数ありますが、一番大事なのは感覚をざっくりつかむことです。その上で実際の使い方に触れ、自分で使ってみるのがベストではないでしょうか。
たとえば可算と不可算について、ややこしいのは「これは可算名詞、これは不可算名詞」という明確な線引きが常に存在するわけではなく、「この意味の場合は可算、この意味の場合は不可算」という分け方も必ずしも通用しないところです。
つまり、同じ名詞、同じ意味でも、可算になることもあれば不可算になることもある。そんな名詞もあるわけで、じゃあどう使い分ければいいのか、ということです。
ざっくり言うと、「個別具体的なものとしてイメージできる場合は可算、漠然としたものとしかイメージできなければ不可算」です。ただし、「イメージできる、できない」というのは、自分の感覚ではなく、英語話者の感覚で、ということになります。
簡単な例を挙げるならcoffee。一般的には不可算名詞とされています。これは、coffeeが何かの容器に入っているわけではない、区切りのない概念的な液体としてイメージされるからです。「コーヒー」のイメージとは違いますよね。
しかし、同じcoffeeでも、コーヒーカップに入った個別具体的なものをイメージして言う場合はa coffeeとなるわけです。Would you like a coffee?(コーヒー1杯いかが?)
これがWould you like coffee?なら、カテゴリーとしてのコーヒーということになり、「(お茶やホットミルクもあるけど)コーヒーでもどう?」のニュアンスになります。
よく目にするミスにexperienceの扱いがあります。たとえば「営業経験があります」と言いたいなら、I have (an) experience in sales.に不定冠詞anは必要でしょうか?
この場合は、漠然とした経験 ですからanは不要です。一方、Visiting Kyoto in November was a special experience.(11月に京都へ行ったけど、特別な体験だった)のように、1回の具体的体験であればaが必要になります。
具体的な体験を複数イメージして言うならI had many experiences that shaped my career.(自分のキャリアを形づくったいろんな体験をした)のように複数形にします。
ただし、「英語話者の感覚」でのイメージというのが難しいところです。たとえばfeedback。He gave me positive feedback.(彼は前向きなフィードバックをくれた)のpositive feedbackは、具体的な1回のフィードバックのように思えます。
ですが、これは不可算。 a special experienceのように「区切りのあるイベント」としてイメージされる場合は可算になっても、positive feedbackは具体的でも「フィードバックのタイプ」のようにみなされ、不可算で扱われます。adviceも同じです。
冠詞の原則
ついでに冠詞にも触れると、定冠詞theはざっくり「読み手とイメージを共有できている(と書き手が思っている)もの」、不定冠詞a/anは「任意のひとつ」に付けます。
イメージを共有できると考えられるなら、文章の中で既出でなくてもtheを付けます。たとえばマニュアルにDo not touch the blade while the motor is running.(モーター作動中は刃に触れないでください)のように書かれます。bladeは既出でなくても、製品に付いているこの刃だと読み手はイメージできると考えられるなら、the bladeとするわけです。
これがDo not touch a blade while the motor is running.なら、複数の刃があって、どの刃にも触らないでね、ということになります。ただし不自然で、「どの刃にも」を強調したanyをaの代わりに使うべきでしょう。
theは「読み手との概念共有」ということで、カテゴリーを表す場合にも使えます。たとえば「クジラは音でコミュニケーションを取ります」はThe whale depends on sound to communicate.と表せますが、「クジラという種は音でコミュニケーションを取ります」という学術的、テキスト的な文脈にマッチします。
A whale depends on sound to communicate.なら、「クジラはどの1頭をとっても、音でコミュニケーションを取ります」という形で、単体をイメージさせながら原則を述べる感じになります。より自然で一般的なのは、Whales depend on sound to communicate.「クジラはみな、音でコミュニケーションを取ります」と複数形にして、群をイメージさせる形です。
細かいルールを暗記するよりも、ざっくりした原則に照らしながらたくさんの英文に触れるといいでしょう。
原則の把握に役立つ参考書:
久野 暲・高見 健一(2004)『謎解きの英文法 冠詞と名詞』くろしお出版

慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。
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