村瀬隆宗のプロの視点『LEARN & PERFORM! 翻訳道(みち)へようこそ』
2026.04.01
翻訳
第52回 Ownership:「所有」ではない訳し方
目次
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳者養成コース講師 村瀬隆宗
訳しにくい ownership
会社員として働くー proactiveな姿勢でスキルを身につけたい
4月は入学、そして入社の季節。我が子も巣立ち、会社寮で社会人生活を始めます。私からのアドバイスは、proactive(積極的)な姿勢でスキルを身につけたほうがいい、という月並みなもの。growth mindset(成長志向)とも言えるでしょうか。
これは、自分にそういう姿勢がなかったという反省からです。会社勤めしていた当時、営業の仕事が得意ではありませんでした。嫌でも、前向きに取り組んで営業スキルを獲得しようとすればよかった。そしたら、その過程も楽しめたかもしれず、一生ものの財産になったかもしれません。結果的に、会社を辞めて翻訳の仕事に出会えたわけですが。
proactiveの二つの意味:experimental mindsetとownership
ここで、proactiveには二つの意味があります。ひとつは、willing to make mistakes(ミスを恐れずに)ということ。experimental mindset(実験志向)という言い方もできるでしょうか。若いほどミスは許されやすいものです。それに甘えて経験を積むのが、成長への近道ではないでしょうか。
もうひとつは、ownershipを持つこと。ownership? 所有? 所有権? ここでは、その意味ではありません。企業の教育資料でよく見かけるものの、一見理解しにくく、訳しにくい言葉です。
英英辞典にもあまり載っていませんが、Cambridge Dictionaryにこうあります。
Ownership: the fact of taking responsibility for an idea or problem(アイデアや問題の責任を負うこと)
会社の文脈では、自分がownerであるかのように「当事者意識」を持つということです。
例)She shows real ownership at work.(彼女はちゃんと当事者意識を持って仕事している)
会社の一員であるからには、仕事を他人事と考えず、自分の事として取り組む。その中でスキルを磨くべきだということです。
類語との比較
ownership, responsibility, accountabilityの違い
定義の中にも出てきているように、ownershipはresponsibilityやaccountabilityに近い言葉です。この三つはどう区別できるでしょうか。同じ「責任」でも、どう違うのでしょうか。
responsibilityは、行動に対する責任です。責任をもって何かをする。
Accountabilityは、結果に対する責任です。責任をもって結果を説明する。
ownershipは、問題などが発生した場合の責任感です。責任感をもって対処する。
ownershipだけ「責任感」となっているのは、姿勢に関する言葉だからです。実際、ownership mindsetというフレーズでよく使われます。
対義語を考え、さらに理解を深める
もっと理解を深めるには、対義語を考えてみるといいでしょう。passive(消極的)、あるいはもっと具体的にwait-for-instructions mindset(指示待ちの姿勢)がownershipの対極になります。「主体性」「自発性」という訳し方もできそうです。
team spirit(チーム精神)もownershipに似ていますが、こちらは横の協力関係の話。ownershipは縦へ上り、オーナーの立場になって事に対処することです。
振り返ると、会社員時代の自分にはownershipが足りていませんでした。team spiritもイマイチだった気がします。社会不適合とは言わないまでも、「会社員不適合」でしょうか。
そんな自分にも、フリーランスという道がありました。そして翻訳のスキルを身につけたことで、それを生かせば「まあどうにかなるでしょう」という自信と心の平穏を持つに至っています。会社員だけが唯一の道ではない。就活などがうまくいかない方には、こうアドバイスしつつ、その代わりに、よりどころになるスキルが必要になることを伝えたいと思います。

慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。
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