アイ・エス・エスは、おかげさまで創業50周年を迎えました
アイ・エス・エスまたは日本における通訳・翻訳の黎明期に活躍された方々から、アイ・エス・エス創業50周年を記念して、当時の思い出やこの業界の現在、未来についてお話を伺い、シリーズ連載を展開しています。
第四弾は、通訳者翻訳者養成学校(アイ・エス・エス・インスティテュート)において、高品質な講義ときめ細かな指導で受講生を養成している横浜校 英語通訳者養成コース顧問の曽根 和子先生にお話を伺いました。
アイ・エス・エス・インスティテュート 横浜校
英語通訳者養成コース顧問
曽根 和子先生
【Interviewer】(株)アイ・エス・エス 営業統括部 通訳グループ ディレクター 白木原 孝次
まず、はじめにISSとの出会いについてお聞かせください。
曽根先生
元来英語が好きでしたので、大学では英文科で学び、その後、英語を使える仕事をしたいと考えていました。当時は英語を使う仕事と出会うチャンスが少なく、卒業後は英語教師をしていました。英語も教えることも好きでしたが、公立学校での教師というのは英語以外の業務も多く、それに時間が取られるというのが現実でした。そこで、教師を辞めて、本来好きなコミュニケーションや異文化、言葉の処理というようなことを仕事としてできないかと思い始めました。そして、英語を生かせるスペシャリストである通訳や翻訳の仕事がよいのではないかと考え、養成学校を探しました。そこで出会ったのがISSです。
養成学校を探していたなかで、問い合わせをした際にとても丁寧な説明で対応が良く、こちらの相談にも乗っていただきながら「今からでも入学できますよ」と言ってくれたのがISSでした。その相談が、漠然と英語の仕事をと考えていた自分の思いが具体的な「通訳」という仕事へたどり着くことになる始まりだったのです。相談に乗っていただいた担当の方が「英語ができる人は沢山いるけれど、英語でお金が稼げる人となると、なかなかいない。私たちには英語でお金が稼げる人を養成するという使命があります。英語ができるというだけで通訳者になることは難しいです」とおっしゃっていたのが印象的でした。1989年頃だと思いますが、入学時の授業はレベルがすごく高いという印象で、授業についていくのが精一杯でした。覚悟はしていましたけれど、「叩きのめされるとはこういう事か」というぐらい (笑)、他の受講生も同様に精一杯だったと思います。
そんな中、本格的に学ぶには英語圏と思い (それまで留学経験はありませんでした)、オーストラリアのクイーンズランド大学大学院へ留学したのですが、その留学先でも、ISSでの授業を経験していて良かったと思いましたね。特に予習・復習の習慣が身についていたこと、厳しいなかでもめげないという気合いが生かされました。留学先には通訳学校での受講経験のない学生もいましたが、勉強の仕方やモチベーションの維持でとても苦労していました。また、通訳学校を経験していない学生は「英語ができない」とよく言っていたのですが、本来は英語と日本語の運用力を習得しなければいけないということが分かっていなかったですね。そういう意味でも、英語と日本語の両方の運用力を事前にISSで身につけられたことは良かったと思います。
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大学院での修士を取得されて日本へ戻ってきてからはどうなさったのですか?
曽根先生
帰国後、日本で通訳の仕事をということでエージェントへ問い合わせをしたものの、「日本の通訳学校の基準でいうと、どれぐらいのレベルの力を持っていますか?」と言われることが多かったですね。これは、「留学で修士号を取ってきました」と言っても「日本ではどれぐらい通用するか」というのがエージェント側の本音だと思い、ISSへ復学しました。
留学で身につけた力もあってレベルチェックでは「同時通訳科」のクラス判定でしたが、仕事の部合もあり、当時、土曜日に開講していたひとつ下のクラスに復学しました。しかし、土曜日にも放送通訳の仕事や他の通訳 (製造業他)の仕事が入ってきたりして、なかなか予定通りに授業に出席できない状況が続きました。
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受講生の皆さんは、本業としての通訳を目指して学んでいる人たちが多いと思いますが。
曽根先生
留学から帰ってきてからは、運良く仕事の紹介もあり、学業から本業へうまくシフトできた時期だったかもしれません。結果的にそうなっただけで、学ぶことを忘れてはいけないということはわかっていました。そんななか、ISSでの講師も依頼されることになり、フリーでの通訳と並行しながら教えることもさせていただいたのです。
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英語教師の経験をお持ちですが、フリーで通訳をすることと、通訳を教えることの両方をすることの醍醐味みたいなものはありますか?
曽根先生
教えることが大好きなんです(笑)。人と接しながら、教えて、その人がうまく上達していくのを見ていくのが好きですね。振り返ると1993年から講師をしているので、20年以上教えていることになります。横浜校ができてすぐの時期だと思いますので、正に歴史ありですね (笑)。
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その歴史のなかで、受講生を見てこられて、昔と今で何か違いがありますか?
曽根先生
今の受講生は打たれ弱い印象がありますね。スポーツなども同じだと思いますが「褒める」ということが大事だと思います。良い部分に目をつけてエンカレッジしていくことがプラスへ向いていく、良い部分を10個ぐらいあげてから悪い部分を2、3個指摘するという感じです。
ポジティブな厳しさとやる気をなくす厳しさがあると思うんですよ。社会的な背景もあると思いますが、昔はやる気をなくす厳しさでも根性論でついてくるというのがあったと思います。根性論でうまくいかないのは、今の人はある意味で賢く、費用対効果的に、その指摘されていることがどんなメリットがあって、どのように役に立つかまでを考えることができるからだと思います。だから、教える側も、厳しく指摘する際は、冷静にポジティブに受け止められるような伝え方を心がけるようにしなければいけないと思います。そして、昔は違ったと嘆くのではなく、時代や世の中が変わり、そこで育った人たちも変わるということを忘れずに、「教える」立場にありたいと思っています。
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「通訳を学びたい」という受講生の意思については、昔も今も変わりませんか?
曽根先生
今は昔と違って、色々な場面で通訳が求められている世の中でもあります。様々な選択肢があって、必ずしも「通訳者」「翻訳者」になりたいと思って養成学校を検討している人たちばかりではないと思います。日々のお仕事の中で、外国人の役員等が出席する会議で「ちょっと通訳して」と言われて、英会話学校では決して学ぶことができない「通訳訓練を生かした英語運用力アップ」を目的に通ってくる人も多いのではないでしょうか。
英会話学校は、自分の知っている話題や興味のあるトピックを、自分が勉強した言い回し、習得した単語を使って話せるように訓練する場所ですが、高度で実務的な英語を運用しなければいけない通訳は、どんな話題が出ても、どんな表現で投げかけられても、理解し、コミュニケーションしなければならないですからね。ただの英会話学習では学び得ないことを養成学校は提供しているのです。
「通訳」という一般的な解釈にこだわらなくても、広い意味での「英語を現場で運用できる能力」を身につけたいという人が今後更に増えていくと思います。そういう人たちにとって、ISSに来て良かったと思われるように、学校も講師も世の中の動きをみながら考えていくことが重要だと思います。
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世の中の動きでは、音声認識技術の進歩も含めて言語コミュニケーションのニーズが大きく変わってくる可能性もありますね?
曽根先生
そうですね。技術的な進歩も含めて、国際言語である「英語」のコミュニケーションのあり方は変わるかもしれません。ただし、より多くの国でのインタラクションが増えていくなかで、すべての人々がコミュニケーションをとるために必要とされるのが「英語」というのは変わらないということ、そして、その英語があまり得意でないという人がいるという部分を、我々通訳者や翻訳者がサポートしていくという役割は変わらないと思います。
技術進歩という点では、機械翻訳の例を挙げてみます。機械翻訳が出始めた当初、「the United States」は「連結した状態」と訳されていました。その他に、ブッシュ元米大統領が湾岸戦争に関して演説したフレーズに「This will not be another Vietnam.」という文章があります。恐らく機械翻訳では「これはもう一つのベトナムにならない」と訳されてしまうでしょう。ここで彼が言いたかったことは「ベトナム戦争の轍は決して踏まない(今度はベトナムのような泥沼にはならない)」ということです。これが通訳、生きた人間がコミュニケーションの橋渡しをするということだと思います。
それはどんな時代でも必要なのではないでしょうか。世の中はコミュニケーションで成り立っているわけで、通訳者・翻訳者のニーズがどうやって広がっていくか、様々に変容していく可能性があると思います。異言語間コミュニケーションで必要とされる具体的な業界や役割は様々にあるとは考えますが、それにいかに呼応していけるかではないでしょうか。時代とともに世界の人々のインタラクションが増える、そして国際言語としての英語がうまく使えない人たちがいる限りは、それを補う人たちが絶対に必要だと思います。
社会的役割といえばコミュニティ通訳の重要性も高まってきていますね。先日、消防署での仕事の依頼があったばかりです。避難訓練の際に、署員が外国人に向けてどうコミュニケーションをとればいいか、通訳を教える仕事をしてきたところです。今後も、今までは考えられなかった場面でも出てくると思います。
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今後、ISSへ期待することをお聞かせくださいますか?
曽根先生
かつては「通訳者・翻訳者のプロを目指す」ための養成学校と、育ったプロフェッショナル人材の提供というエージェント機能を持ったビジネスモデルが主流だったかと思いますが、学校の受講生をみると、お仕事をしながら通う受講生も多く、中にはプロを目指しているわけでなく純粋に英語の実力を上げたいという方もいらっしゃいます。
そこで感じるのは、英語のスペシャリスト、すなわち、使える英語でコミュニケーターとして様々な場面で役に立てるグローバルな人材を育てる、という、最終ゴールをプロだけに限定しない養成学校と、その人材を生かすエージェントであることを期待しますね。
講師の立場では、純粋に思っていることがあって、極論として、「ISSに通って良かった」「これだけの授業料を払ってでも受講したい」といつまでも受講生に感じてもらい続けることが目標です。
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―先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。