村瀬隆宗のプロの視点『LEARN & PERFORM! 翻訳道(みち)へようこそ』
2026.07.01
翻訳
第55回 Character:サッカー英語を知ってワールドカップを100倍楽しもう
目次
アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳者養成コース講師 村瀬隆宗
日本代表の強さを支える「voluntary dedication」
サッカーワールドカップ、執筆時点で日本がグループステージ2位通過を決めました!この先の決勝トーナメントがどうなるかは予想できませんが、アメリカ開催の1994年から大会の全試合を見続け、サッカー翻訳に長年携わってきた者として、感じています。日本の黄金時代が幕を開けたと。
今の日本代表チームの最大の強み。それはvoluntary dedication(自発的献身)、つまり、控えを含めてどの選手も率先して組織の一部となり、for the teamに徹し、各自の役割を全うしていることではないでしょうか。これは、和を重んじるDNAを受け継いだ日本人の集団ならではの強みであり、森保監督の戦術がどれほど優れていようと、他国のチームがコピーできるとは思えません。
独自のvoluntary dedicationをベースにした戦術の結実に加え、かつては強豪国に比べて大きく劣っていたテクニック面、フィジカル面でも遜色なくなってきた。それが、近年の好成績の理由であり、黄金時代が始まると考える根拠です。
誤解されやすいサッカー英語を読み解く
さて、これから佳境を迎える大会をもっと楽しめるように、サッカー関連でよく使われるものの、意味がはっきりしない、あるいは誤解されがちな英語表現を説明します。
Character
グループステージ第1戦で日本が強敵オランダと2-2で引き分けたあと、鎌田選手はこうコメントしました。
「(2度リードされながらも)追いついて引き分けで終われたというのは、みんなのキャラクターを示していると思う」
これを聞いた人のほとんどは、「各選手の個性が強い(キャラが立っている)から、同点にできた」ということだと解釈したのではないでしょうか。
違うんです。このcharacterというのは、サッカー選手や監督のインタビュー(特に試合後)で非常によく使われる言葉です。その意味は「気骨、粘り強さ、不屈の精神」といったところです。鎌田選手はイングランドのクラブでプレイしているだけに、この言葉が自然と出てきたのでしょう。
Intensity
今では「インテンシティ」とファンの間ではカタカナでも通用し、「プレイ強度」と訳されることも多いこの言葉ですが、具体的にはどのようなパフォーマンス指標なのでしょうか。
相手選手に対する当たりの激しさ、だけではないのです。Intensityはon the ballでもoff the ball(ボールのない所)でも測定されます。そして、身体的な強さだけの話でもありません。
元リバプールFCのジェイミー・キャラガラー氏はこう述べています。
Intensity means being ready for a game of football mentally as well as physically.
(インテンシティとは、フィジカルとメンタルの両面で試合を戦う準備ができていること)
体も心も、戦う姿勢になっていること。それがintensityであり、世界中のサッカー関係者が日本代表チームの特長として、インテンシティの高さを挙げています。
duel
「決闘」を意味するduel(デュエル)は、サッカーでは球際の強さ、つまりボールの競り合いでの強さの指標として使われます。ボールを奪い合う状況で、ボールを守り切った、奪い取った、あるいは空中戦での競り合いに勝った割合を示します。デュエル勝率が高いほど、1対1の競り合いに強いということです。
かつては身体的に劣る日本代表選手のデュエル勝率は低めでしたが、サッカーの本場ヨーロッパでプレイし、揉まれる選手が増えるにつれ、遠藤選手がドイツのリーグでこの指標のナンバーワンに輝くなど、引けを取らなくなりました。その結果、組織力だけでなく、1対1でも十分に世界とわたり合える代表チームになったのです。
Transition
一般的には「移り変わり」を意味し、サッカーでもthe J.League’s transition to an autumn-to-spring calendar(Jリーグの秋春制への移行=2月~12月だったシーズン期間を今年から8月~5月に変更)のように使われていますが、試合では「攻守の切り替え」を意味し、「トランジション」で通じるようになっています。
しっかり守り、ボールを奪ったら素早く攻撃に切り替え、それまで攻めていた相手の手薄な守備の間や裏にパスを通してゴールを急襲する。これを基本とする戦い方をカウンターサッカーと呼び、英語ではtransitional footballといいます。transitionは日本の強みのひとつ。素早いカウンター攻撃からのゴールを期待したいところです。
hydration break
今大会で初導入されたこのシステムも、わざわざ「給水休憩」とは訳されず、「ハイドレーションブレイク」のままでおなじみになっています。各45分の前半、後半のそれぞれの中間に設けられる約3分間の給水タイムです。
選手を暑さから守るための安全策ですが、選手たち自身やコーチ陣、観客からの評判はあまりよろしくないようです。それは、flow of the game(試合の流れ)を断ち切り、場合によっては変えてしまうから。いい感じで攻めていたら中断され、休憩が明けると流れが変わって逆に失点してしまうことも。日本代表には有利に働いてほしいものです。
first-time shot
さて、これはどんな意味でしょう?
His first-time shot fired Japan to the World Cup title!
「彼の最初のシュートが、日本をワールドカップ優勝へ導いた」ではないんです。このfirst-timeはwithout controlling or stopping the ball first(来たボールを、まずコントロールしたり止めたりせずに)、つまりfirst-time shotはダイレクトシュートを意味します。パスにうまく合わせてシュートを放つわけです。
この例文は個人的な願望、あるいは妄想にすぎませんが、ひょっとして現実になったら「予言者」としてSNSでもてはやされたりして!という俗欲もこめて作りました。ついでに、「彼」も予言しておきます。ずばり、秘密兵器のストライカー、塩貝選手でしょう!

慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。
この記事をシェアしませんか?
